「アレン道あってる?」
「たぶん大丈夫」
今私たちはリーザさんのお家に向かっています。どうしてもリーザさんにもう一度会いたくて、マザーに住所を教えてもらったのです。
*
「三つ目の通りを左に…」
ぶつぶつ言うアレンを横目にふと街の様子を見渡すと、見覚えのある男を見つけた。
「アレン、あれって」
「え?…あ」
「昨日のドクターだよね?」
「間違いないです。こんなところで一体何を…?」
きょろきょろと辺りをうかがいながら公衆電話に向かうドクター。その様子は見るからに怪しい。その怪しい素振りがどうも引っ掛かり、私たちはさりげなく公衆電話に近づく。近くまで行くと、書店にある適当な新聞を手にとって耳を澄ませる。
「ああ、私だ。分かってる!金は明日までに必ず振り込むから!」
ドクターが必死の形相で受話器に向かって叫んでいる。昨晩とは全く違う様子に少し戸惑いながらも新聞の端から様子をうかがう。
「わかってる!明後日だろう?金の入る当てはあるんだ!ああ、残りの分をそっくり返してやるから!だから病院に来るのはやめてくれ、わかったな!」
がちゃんと乱暴に受話器を置き、疲れたようにため息をつく。
「…うるさい高利貸しめ」
ドクターはぞっとするような恨みのこもった声でつぶやいた。
「(なんなの、この変貌ぶり)」
その後もう一度どこかに電話をかけるドクター。受話器を持ちながらぺこぺこ頭を下げるところを見ると、さっきよりも気を遣う相手なのか。ドクターの顔には汗が浮いていた。
「…アレン、どう思う?」
「なにかありそうですね」
「うん、私もそう思う」
「あっ!出て来ますよドクター」
アレンが小声で言うのに反応しドクターを見る。ドクターは受話器を置くと、ガンと近くの壁を蹴った。
「くそぅ、リーザの奴が強情をはるから!」
「「 !? 」」
思いがけない言葉に私は声を出しそうになった。ドクターはせわしない足取りで通りに消えて行った。なんだか嫌な感じがする。もやもやもやもやと。
「なまえ、早く行きましょう」
「うん」
マザーが教えてくれたリーザさんの家までの地図を手に、私たちは走った。
― ― ― ― ―
(アレン道あってる?)
(…たぶん大丈夫)
(じゃあここどこ?)
(…たぶん大丈夫)
(もう嫌だこの人)
方向音痴アレンさん健在