アレンと訪れたイギリス。私たちは、教団本部の場所を聞きに師匠のパトロンであるマザーに会いに来たのでした。

「…本部の場所、だったね」
「…(ごくり)」
「教えてやるよ」
「よっしゃあああ!!」
「ただしタダとはいかんがね」

私の喜びのおたけびも虚しく。振り上げた握り拳の行き場もなく。にたりと不気味に笑うマザーに冷や汗が止まりませんでした。




マザーに本部の場所を教えてもらう交換条件に出されたものは、一ヶ月程前に恋人を亡くしたリーザさんという女性を立ち直らせること。リーザさんは今、教会の傍の墓地で一人泣いている。マザーの話によると、恋人は病で亡くなってしまったらしい。私とアレンはそんなリーザさんをお墓の影から覗き見ている。

「…ぐす、」

啜り泣く声が微かに聞こえてくる度に、胸がきゅうと痛む。それは、私にも大切な人を亡くした時の感情が理解できるからだ。

「ア、アレン先行って」
「なまえが行ってください」
「男ならさっさと行かんかい」
「こういうときだけ女の子ぶるのやめてくださいよ!」
「しー!声でかい、馬鹿!」
「なまえにだけはそんなこと言われたくないです!」
「どっちを?声でかいの方?それとも馬鹿の方?そうなのか素直に言いやがれ白髪!!」
「痛い!やめてください馬鹿!」
「はげろ!はげちらかれ!」
「…あの、どなたですか?」

くだらないことで始まった取っ組み合いをしていると、困惑したような綺麗な声が聞こえた。二人同時にそちらを向くと、そこには、泣きすぎて目を赤くしたリーザさんがいた。

「うるさくしてすみません!」
「怪しい者じゃないんです!あの、僕らは最近ここに来たばかりの教会の者で…」
「修道士さん…?」
「それですそれです」

アレンは必死に力強くうなずく。私はリーザさんの傍まで行き、一つのお墓の前に座り込む。

「ここに眠っている人があなたの恋人ですか?」

墓石にそっと触れながらそう尋ねると、私の隣にリーザさんが腰をおろした。ちらっと見ると、リーザさんは切なそうに微笑っていた。

「お別れのとき、彼は私に"さよなら"といいました…微笑みながら。だから、悲しくて泣きたかったけど、私も笑顔で言ったんです"さよなら"って…」

私は視線をリーザさんからお墓に移し、それをじっと見つめる。

「それは…つらかったでしょうね」

アレンが寂しげな声色で言う。

「ええ…とても。彼を看取ることができたし、後悔はしていません。彼の死を受け入れたつもりだったんです」

私とアレンは静かにリーザさんの話を聞く。何も言うことができずに。

「でも…」
「リーザ!」
「…ドクター」

リーザさんの声を遮るように男の大声が墓地に響き渡った。ドクターと呼ばれたのは太った中年男で、どたどたと重い足音を立ててやってきた。どうやらリーザさんの知り合いらしい。

「捜したよ。やっぱりここにいたんだね」

荒く息をつきながら、ドクターはリーザさんに笑いかけた。優しそうな笑顔だった。

「すいません…」
「いや、いいんだよ無事なら。ん?きみたちは?」

リーザさんに向けられていた瞳が今度は私たちに向けられる。

「あ、あの新しく来られた修道士さんです」
「アレン・ウォーカーです」
「なまえです」

リーザさんに軽く紹介され、どきまぎしながらも名前を名のってぺこりと頭を下げる。

「修道士さんですか…ずいぶんお若いですな」

ドクターが驚いたような怪しがるような顔つきをしたので、平常心を装いながら作り笑顔を浮かべる。

「リーザさんの様子が気になって、声をかけたんです」
「そうですか。彼女は今ちょっと心を病んでましてね。私のところでカウンセリングを受けてるんです。ご迷惑をおかけしましたが、私が責任を持って彼女を立ち直らせますので…」

長々と話すドクターはリーザさんの肩に手をかけた。

「リーザ、もう帰ろう。ここにいても彼は戻ってこないよ」
「ドクター、そのことなんですが」
「ひどい顔じゃないか、ずっと泣いていたのかい?もう今日は休んだほうがいい。話はまた明日聞くから、いいね?」

ドクターの言葉にリーザさんは小さくうなづき私たちの方へ向くと、頭を下げた。

「心配かけてすみませんでした」
「いえ。また何でも聞きますのでいつでも教会に来てください」
「待ってるよリーザさん!」

リーザさんはふっと優しく微笑んでからもう一礼し、ドクターは帽子を軽くあげて挨拶し墓地を出て行った。すると必然的に墓地にいるのは私とアレンだけになるわけで。夜の墓地に風が吹き、まるで人のうめき声のように聞こえる。肌寒さと恐怖心に体がぶるっと震える。

「ア、アレン」
「どうかしたんですか?」
「その、さあ…えーと」
「なに?」

訳が分からないというように首を傾げるアレン。察してよ!私が怖いの苦手なの知ってるくせに!でも自分からは言いだしにくくて、素直に言葉が出てこない。

「あれ、なまえ寒いんですか?体震えてません?」
「…い、から」
「え?」
「怖い」

こんなの子供みたいで、女の子みたいで恥ずかしい。いや、実際女だしまだまだ子供なんだけど。でも、なぜだかアレンとは同等の立場でいたいんだ。

「手握ってて、ください」

怖いときや不安なときは人の温もりが欲しくなるものなんだよ。私はアレンに手を差し出す。

「そっか、ごめん。なまえ怖いの苦手でしたね」

震える手をなんの躊躇いもなくアレンの左手が包んでくれる。

「それにしても怖いのが苦手なんて、なまえもやっぱり女の子なんですね」
「どういう意味」
「いや?ただ可愛いなって」
「アレンのほうが可愛いよ」
「嬉しくない」

握る左手に力を込める。きっと、アレンの左手にこんなに触れられるのは私とティムくらいだ。それが嬉しくて、安心して。

「アレン、ありがとう」

― ― ― ― ―

(なんですか急に)
(いやなに引いてんの)
(なまえ熱あります?)
(なんで、ないよ)
(じゃあなまえに似た別人?)
(そんなに私のありがとうが珍しい?)


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