突然現れた初対面のエクソシスト二人。ラビとブックマンと自己紹介を終えた後、気絶したヨウさんをベッドに寝かせて船上パーティーの招待状を手に入れるため部屋中を探し回っていた。そして、ついさっきヨウさんの手帳に挟んであった招待状を見つけたところ。ヨウさんごめんなさい、ありがたく頂戴します。

「コムイが言ってたのって、二人のことだったんだ。任務が終わった人がいるから向かわせるって…」
「そういうことさね。オレは明日なまえと一緒に船に潜入するから」
「ワシはこのヨウという男が目覚めるまで側にいて、事情を話しておく。といってもそこのバカ弟子が手加減なしで気絶させたから、しばらくは目覚めんだろうな。任務のことはお主らに任せる」

ブックマンにお願いしますと頭を下げてから、ラビに顔を向ける。にこっと満面の笑みを向けてくれるラビの笑顔には、何だか少し違和感を感じた。私やアレンより少し年上…神田やリナリーと同じくらいだろうか。エクソシストは若い人も多いんだなあ。

「なんさじーっと見て…惚れた?」
「ハッ、ご冗談を。別にアホっぽい顔だなーとか思ってないよ」
「初対面からキツイさー」

へらっと笑ってそう言うラビ。私がこうやって憎まれ口を叩くと、アレンは言い返してきて喧嘩になるか説教されるかのどちらかだったけど、こういう反応は新鮮だなあ。精神が強そう、これはいじめてもいい人だ。

「何か失礼なこと考えてねえ?」
「ところでラビ。船に潜入するって言ってたけど、そのためには国王からの招待状が必要なんだよ。持ってんの?」
「次期ブックマンのオレをなめんなさ」

ラビはそう言うとどこからか招待状を取り出してきて、にやりと不敵に笑った。ブックマンが何なのかよく分からないけど、あんまり興味もないしここはスルーしとこう。

「つーわけで、なまえのことはオレがちゃーんと護衛してやるから。何も心配いらねえさ〜」
「護衛?そんなのいらない」
「何言ってんさ。ついさっきそこで寝てる男に襲われかけたばっかりだろ。オレが助けなきゃやばかったぞ」

言い訳ができないから悔しい。私は、子供だから弱いからという理由で守られるのが大嫌いだ。だけど今回はラビに助けられたのも事実で。

「お前オレより年下だろ?さっきみたいなの、危ないから二度とすんなさー。男はみんなオオカミなんだからな」
「あれは油断してたから。子供扱いしないでよ、私だってエクソシストだ」
「子供扱いじゃない、女扱いさ。そんなにオレに守られたくないなら、男のオレに力で負けないくらい強くなるさね」

ラビのえらそうな態度にムカついて、うるさい!と渾身のビンタを一発お見舞いしてやった。ラビは悲鳴をあげながらしばらく床の上をゴロゴロ転がって痛みに耐えていた。その様子がおもしろくて少しにやけていると、ドエスさ…と涙目で見つめられた。やっぱりこの人いじめがいがあるわ。




ブックマンとラビも同じ宿に泊まるらしい。私は一度部屋で待機してもらっている探索部隊の人へ無事招待状を手に入れることができたと報告をしにいくため、部屋に戻った。私の留守中に探索部隊の人は本部から呼び出しをくらったらしく、一足先に教団に戻らなければならなくなった。最後まで付いていられなくてすみませんと謝る探索部隊の人に大丈夫ですと告げ、宿の入り口まで見送ってから、ずっと脱ぎたかったドレスをやっと脱ぐことができた。それから違和感だらけだった人生初めての厚化粧もすぐにとった。化粧ってこんなにも人を変えるんだ。探索部隊の人の化粧技術なしでは、きっと私はヨウさんを誘惑できなかっただろう。感謝です。いつもどおりの格好に戻った私は軽くシャワーをあびてから、ラビとブックマンが泊まっている部屋に向かった。軽くノックすると、すぐに部屋の扉を開いてくれたのは私よりも身長の低いブックマンだ。

「ブックマン、ヨウさんはどうです?」
「なまえ嬢、大丈夫眠っているだけだ。針治療を施しておいたから目覚めた時痛みも気だるさもないじゃろう。それにしても、着替えられたのか…見違えたな」
「えへへ、やっぱり変わりますか?化粧って怖いですよねー」
「そちらの方がなまえ嬢らしい」

会ったばかりで私の何を知ってんだと言ってやりたくなったけど、やめた。ブックマンに喧嘩をふっかけても軽くあしらわれそうだ。彼は何だかラビ以上に違和感を感じる。これ以上は誰にも踏み込ませない境界線を持っている気がして、気軽に会話できない。この人はラビ以上に、何かを隠し持っていそうだ。私の探るような目にも気づいているのかいないのか、ブックマンは今夜はヨウさんを見ているといってヨウさんの部屋に向かっていった。私も疲れたから部屋に戻って寝ようとラビたちの部屋の扉に背を向けた時、扉が大きな音を立てて開かれた。

「じじい!テメーバスタオルどこやったさ!…って、あれ?じじいは?」
「…何してんの?露出狂?キモ。ブックマンならヨウさんのとこ行ったよ」

なぜか腰にタオルを巻いただけの状態で廊下に出てきているラビ。私を見つめて目を丸くする目の前の変態を、全力で蔑む。

「え?その声とその暴言…なまえか?」
「そうだけど。何?そんなに化粧落とすと違う?喧嘩売ってんの?」
「まじ?!子供じゃん!さっきまでの色気どこに落としてきたんさ!オレちょっとときめいたのに!ショックさ〜」

表情、言葉、ラビのすべてに腹が立ったけど、特に子供という単語にカチンときた私は、タオルで隠されたラビの急所を全力で蹴った。

「ぐあああ!!!あーーーーーいっだい!!!何するんさなまえ!鬼!」
「うるさい!女の子にそんなこと言う方が悪いんだ!使い物にならなくなればいいのに!セクハラ!変態!」

床に膝をつき悶えるラビに思いつく限りの罵声をあびせる。その時周りの部屋の人の何人かが私たちの声のせいで起きてしまったのか、部屋の扉を開けて外の様子を見渡していた。そして私と全裸に近い状態のラビを目にすると、やばいものを見たような顔をしてすぐに部屋の扉を閉める。うわあ、通報されたらどうしよう。

「…あー、だいぶ痛みおさまったさ」
「早く部屋戻って着替えなよ、じゃ」
「うわ!ちょ、待てなまえ」

何、と不機嫌最高潮の顔で振り返ると、さすがのラビも顔を引きつらせていた。

「寝る前に明日の作戦練ろうさ」

こんなデリカシーのない奴と組まなきゃならないなんて、私はコムイを恨む。可愛いリナリーと任務に行けてるアレンが、今すごく羨ましいよ。




「…で、国宝の在り処を見つけ次第この小型通信機でお互いに知らせると」
「ああ、絶対なくすなよ。もしなくしたらなまえはゴーレム持ってないから連絡取れなくなるさ」
「 国宝がイノセンスかイノセンスじゃないかどうやったら分かるの?」
「イノセンスなら伯爵が嗅ぎつけてアクマをよこしてるはずだ。人間に紛れて」

ということは、戦える準備をしておけということか。さっき着たドレスじゃ動きにくいかもしれない。裾を千切ろう。

「じゃあ、だいたいの流れはもう決まったね。部屋に戻るよ」
「ふぁーオレも疲れたからもう寝るさ。おやすみーなまえ」

語尾に音符がつきそうな笑顔で手を振るラビに、真顔で手を振り返して部屋を出た。つかめない人だ、ラビもブックマンも。ブックマンって一体どういう職業なんだろう。ラビと二人で一緒に任務の作戦を練っていて分かった。ラビはアホそうに見えてすごく賢い。彼らに少し興味がわいてきたかも。

「綺麗な三日月…」

部屋の窓から見える夜空にぽつんとひとつ浮かぶ三日月。アレンもティムも隣にいない夜。慣れなくちゃいけないのは分かっていても、それが少し怖い。アレンもこの三日月、任務先で見ているといいな。巻き戻しの街だっけ…アレンもリナリーも、危険な目にあってなければいいけど。

「…会いたい」

ー ー ー ー ー
(なまえ?)
(どうしたのアレンくん)
(なまえに呼ばれた気がした…)

(子供にストライクするなんて、オレってロリコンだったんか…?いやいや、あれはあの時のなまえの格好のせいさ、うん)

なまえは童顔気味で化粧映えする顔


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