ガコォン。そんな音を立てて私たちの乗っている舟は止まった。嵐で汽車が遅れてしまったため外はもう真っ暗だ。私たちが今いる教団の地下水路も例外ではなく、辺りは薄暗い。ああ、私は暗いのも怖いのも苦手なのに。教団ってどうしてどこもこんなに薄気味悪いのか。内心ビクビクしている私をよそに、隣のアレンは大きな欠伸を一つこぼす。

「もう真夜中だなあ…回収したイノセンスはどうしたらいいのかな」
「科学班の方なら誰か起きてらっしゃると思いますよ」
「じゃあ行ってみます。行きましょう、なまえ」
「え?!あ、ああ!そうだね!」

振り返ったアレンは、見るからに動揺している私を見て目を丸くする。そして眉を下げて笑って、ああそうでしたねと呟いた。うう、恥ずかしい。弱いところを見られるのは、あまり好きじゃない。だけど怖いものは怖いから、アレンが差し出してくれた左手をありがたく思いつつぎゅっと強く握った。

「かわいい」
「…は?」
「なまえ、かわいい、です」

アレンが笑ってそんなことを言うものだから、頬に熱がぶわっと集まる。私はいてもたってもいられなくなって、アレンの手を引っ張るようにして先を急いだ。なにこれ、なにこれ。心臓がなんかうるさい。アレンがクスクス笑ってるのも無視して階段に足をかけようとした時、ドサッと何かが落ちてきた音がして足元を見た。

「…リ、リナリー?!」
「どうしたんですか!!」

頬の熱は一瞬にして冷めた。リナリーを抱き起こしてアレンと二人で声をかけるが、目を覚ます気配はない。こうして見るとリナリーって本当に美人さんだなあ…じゃなくて!そんなこと言ってる場合じゃない。一体何が?

「も、戻ったかアレン…なまえ…」
「!リーバーさん!?」

アレンが立ち上がり怪我をしてボロボロなリーバーさんを支える。リナリーだけじゃなくリーバーさんまで…本当に何が?広がる不安を胸に、私はリナリーをおんぶしてリーバーさんの元へ歩いた。

「に…逃げろ。コムリンが来る…」
「「は?」」

ドドドドドと何かがすごい勢いで近づいてくる音が聞こえる。こむりんって、何だろう?アレンと顔を見合わせ首を傾げた時。ドカン、とありえないくらいの爆音で壁を突き破ってきたロボットのような何か。リーバーさんはそれを見て、来たぁと呟いた。ってことは、あれがこむりん?何だろう、嫌な予感しかしない。こむりんが地下水路に飛び込んだせいで溢れた水によって、私たちもびしょ濡れになる。

「うぎゃーびしょびしょだよ!」
「な、何アレ?何アレ!?」
「くっそ、なんて足の速い奴だ…」

こむりんは地下水路からゆっくりと起き上がると、私たちの方を向く。

「発…見!リナリー・リー、アレン・ウォーカー、なまえ。エクソシスト三名、発見」
「逃げろアレン、なまえ!こいつはエクソシストを狙ってる!!」

そ、そんなこと言われても!それにしても、リナリーってこんなに可愛くて細いのにエクソシストだったんだ。可愛い上に強い女の子だなんて、さらに憧れちゃうなあ。なんて呑気に考えていると、いつの間にかリナリーを背負ったアレンに腕を引かれる。アレンにされるがまま走っていると、後ろからこむりんの手術ダー、なんて声が聞こえてくる。これって、もしかすると笑ってられないくらい危険な状況だったりするのかも。私はアレンの負担になっちゃいけないと思って、腕を振り払った。斜め前を走るアレンの瞳と目が合うと、それは一瞬戸惑ったように揺れる。あ、もしかして勘違いさせたかも。弁解しようとしたけど、アレンはすぐに顔を背けてしまって、何も言えなかった。

「リーバーさん!!ワケがわかりません!」
「ウム、あれはだな!コムイ室長が造った万能ロボ"コムリン"つって…見ての通り暴走してる!」
「何で!?」

アレンのツッコミが炸裂している、と関心しながら足を必死に動かすことは怠らない。と、そこで私は閃いた。

「ねえリーバーさん、コムリンってエクソシストを狙ってるんですよね?」
「ああ、エクソシスト以外には何故か反応しない」
「…そっか。じゃあ、私別行動します」
「は?!何言ってんですかなまえ」
「エクソシストが一箇所に固まってたらリーバーさん達が危険だよ。だから、私がイノセンス使ってコムリンの気を引くからそのうちにみんな逃げて。私のイノセンスなら上手く逃げられるし」

アレンの反論もリーバーさんの制止の言葉も無視して、私は空中に飛び上がる。そしてできるだけコムリンの目に止まりやすいように飛ぶ。なのに、あろうことかコムリンは何故か私を素通りしてアレン達を猛スピードで追いかけていった。後に残ったのは無意味にイノセンスを発動させた私だけ。あれか?私はエクソシストとしてまだまだ未熟だと?改造する価値もないと?そう言いたいのか?

「…ふっ、ふざけんなコムリィィィィィィン!!!!」

これが、あの真夜中の悪夢のような出来事の始まりだった。

― ― ― ― ― ―
(許さん許さん…コムリンはもちろん
あいつを造ったコムイさんも絶対許さん)
(何だろう?寒気がするんだけど…
それよりボクのコムリンはどこ?!)

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