小さな街の小さな店の片隅にこの場の雰囲気にそぐわない少女が一人。ここは金持ちの大人が暇つぶしのために訪れる場所。ここでは主に金での賭け事が行われていて子供が来るような場所ではない。だがこの少女は毎日のようにここを訪れていた。

「コール!」
「また負けたァァァ!」
「さすが嬢ちゃんだ!」
「今日も負け無しね!」

周りを取り囲んでいた大人たちから感嘆の声が上がる。少女は手に入れた金をバッグの中に詰め込み立ち上がると、にこっと得意げに笑い、一言。

「楽しかったよおじちゃん!またお金、ちょうだいねー」

そして、ひらひらと手を振りながら店を出ていく。少女がいなくなった後の店には楽しそうな笑い声が響いた。暗い夜の道、少女は微笑みながら靴の音を静かに響かせて歩いていった。




今日もなかなか稼げたなぁ。私は、そんなことを考えながら病院のある一室へと足を踏み入れた。白いカーテンに影がゆらゆら揺れて、中にいる人物が起きていることが分かる。勢いよくカーテンを開けると、着替え中の兄弟子、アレン・ウォーカーの姿があった。

「わっ!なんだなまえか…驚かせないでくださいよ」

恥ずかしかったのか、顔を赤らめて急いで服を着るアレンに近づきバッグの中を見せる。

「アレンみてみて!今日もたんまりお金稼いで来たんだよ、すげくね私!」
「また行ったんですか馬鹿、やめろって言ったでしょ!」
「なんで、別にいーじゃんか、アレンだって行くくせにさ」
「僕はいいけどなまえはだめです!女の子一人であんなとこ危なすぎます、誘拐とかされたらどうするんですか!前から思ってたけど、なまえには警戒心ってものが……」

必死に世の中の危険を説明してくるアレンの話を全く聞かずにお金を数えていく。ひーふーみーよー。わお、改めて数えてみると師匠の借金と比べるとはした金だが、まだ若い私には少々刺激の強い金額だ。

「聞いてんですかなまえ!」
「ごめんお金が私を呼んでる」
「はぁ、もういいです。どうせ明日からは僕が傍にいるから絶対にそういうとこには行かせませんし」
「え?それって」
「今日でやっと退院です。師匠に殴られたせいで少し出発は遅れたけど、明日には教団を目指すためにこの街出ますよ」
「わかった!やったあティム!」

やっと前に進めることが嬉しくて空中を飛んでいたティムを掴み抱きしめる。ティムは始め苦しかったのかじたばた暴れたけど、抱きしめる力を緩めるとおとなしくなってくれた。

「明日のいつ頃出発?」
「そうですねえ。早い方が」
「ねえアレン」
「なんですか?」
「教団ってどこ?」
「………え」

私のふとした疑問にアレンは目を丸くして、口を開いたまま固まる。え、まさかわかんないの?嘘でしょ、どうすんのさ!教団の場所なんて一般の人が知ってるわけないし、もし知ってる人に出会えたとしても、それは教団関係者だ。きっとそう簡単には教えてくれない。

「そ、そうだ!ティムなら」

ティムはまさか自分が頼られるとは思っていなかったのか、体をびくっとはねさせると次の瞬間には勢いよく体をぶんぶんと振って否定をあらわした。それを見ると私とアレンは分かりやすく肩をおとす。

「ティムでもだめか」
「どうしよう!幸先悪い!」

二人で頭を抱えていると。

「…あ、」
「なにかいい考えあった?」
「マザーなら知ってるはずだ」
「まざー?誰のお母さん?」
「じゃあ明日の朝7時にイギリスに向けて出発しましょう!」
「えー起きれなーい」
「久しぶりだなあ、イギリス」
「おい白髪聞いてんのかこら」
「今日は病院に泊まっていいらしいから、早く寝ましょう」

私に背を向けベッドに入って、楽しみだなとか久しぶりだなとか言うアレンを見て少し寂しくなった。人を無視して浮かれちゃってさ。ちょっとむかついたので頭をかちわるくらいの勢いで頭突きしてやった。

― ― ― ― ―

(なにすんですかなまえ!)
(ふん!ざまあみろ)
(いや、なまえ痛すぎて
泣いてるじゃないですか
馬鹿なんですか君)
(思ったよりアレン頭固かった)
(やっぱ馬鹿だろ)

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