女の子って、誰でも可愛くありたいって思うものだ。朝の洗面台を占領するのは、いつだって私。髪を結って、寝癖を直して。今日は昨日買った新しいヘアゴムを付けようかな。赤いお星さまを見て、すぐこれにしようって思ったの。そうこうしてるうちに、いつものように家族から用意が遅いとか長いって怒られる。だって仕方ないじゃんか。私みたいな普通の子はたくさん頑張らないと駄目なんだ。あの人に、少しでも見てもらうためには。 鏡の前で最終チェック。前髪を軽く分け、鏡に向かってにっと一度笑ってから家を出た。 * 時計を見ると今日もぎりぎり。自転車をこぐスピードを速める。この感じじゃあ、学校に着いたらすぐ席に着かないと。今日もおはようのあいさつはできそうにないなあ。静かにため息をついた。明日はもっと早く起きよう。起きれるかはわかんないけど あの人に会うためだったら、頑張れる気がするの。 「…ぎりぎりせーふ」 自転車を自転車置き場に止めて一息つく。鞄を持って教室まで走った。時計を見たら本鈴まであと三分。今日はいつにも増して危険だ。階段を焦りながら駆け上がろうとしたとき。 「みょうじさん?」 聞こえた声に肩を跳ねさせて、ゆっくりと振り返る。珍しく寝癖のついたウォーカー君がにこって笑った。あ、おはようって言わなきゃ。 「おはようございます」 「!う、あ…おはよう」 また今日もウォーカー君に先に言われてしまった。今日こそは自分から言うんだって決めてたのに。どよんと落ち込む私を、ウォーカー君が不思議そうに見る。ああ、私って駄目だなあ…。て、てゆーかそんなに見ないでくださいウォーカー君!緊張で心臓死にそうです! 「ウォーカー君、寝癖ついてるの、珍しいね!」 「え?ああ、今日寝坊しちゃって…おかげで電車も乗り遅れちゃいましたよ」 だから今日は遅いんだ。驚いたんだ、ウォーカー君学校来るのいつも早いはずなのに。恥ずかしそうにほにゃって柔らかく笑うウォーカー君に、胸がきゅんって高鳴る。やっぱりすごく好きだなあ。 「みょうじさんはいつも髪綺麗にしてますよね」 「え、そんなこと」 「あれ?」 ウォーカー君の視線がある一点で止まった。私の頭なんかついてた?!どどどどうしよう。私が軽くパニック状態に陥った時、校舎に響いたチャイムの音。 「あ!ち、遅刻する!」 「わ、忘れてたぁ!みょうじさん急ぎましょう!」 ウォーカー君に手を引かれて階段を駆け上がる。でもこんなときでもやっぱり、私の頭の中は遅刻のことより、ウォーカー君と手を繋いでるってことでいっぱいだ。教室の扉をガラッと開けると、みんなの視線がこっちに集まる。そしてそれは自然と二人のしっかりと繋がれた手に。 「…あっ」 ぱっとウォーカー君の手を離す。ウォーカー君は私の顔を見ると少し笑って、小さくごめんなさいって言った。ウォーカー君何にも悪くなんかないのに謝らせちゃった。後悔しながら席に向かって歩こうとしたとき手を掴まれる。びっくりして振り返ると、笑顔のウォーカー君。混乱した頭で教室を見渡す。先生の話が始まったので幸いこっちを見てる人は誰もいない。ウォーカー君人気あるから、こんなことあったら絶対女の子からの嫉妬がすごいもん。あ、でもさっき手繋いでるの見られたからどっちにしろ次の休み時間は質問攻めか…はあ…。て、そんなことじゃなくて。 「あの、ウォーカー君?」 「それ、ヘアゴム」 「え?」 「新しいのでしょ?それ。すごく似合ってますよ、可愛い」 「…え」 呆然と立ちすくむ私を置いて、ウォーカー君はさっさと席に着いてしまった。え?なに いまの? 甘いキャンディをくれる あなたに 翻弄させられるのは、 恋する臆病者な私 (アレン顔赤いさねー) (うるさい黙れ万年発情期) (え、なにこの仕打ち) (あー…緊張した) 20120716 |