「ねえ、ヒロトー」

「なに?」

「何でもない、呼んでみただけ」

二人で手を繋いで最寄のDVDレンタルショップに来た。あんまり借りても全部は見られないから5枚借りよう。名前は3枚借りていいよ。俺は2枚で十分。と紳士的に振舞ったが先ほど彼女はまるで付き合い始めの初々しい乙女のような恥った目付きで俺の名前を呼び、おまけに漫画臭いロマンチックは言葉をレンタルショップにて紡ぐ。だが彼女の手元を見るとDVDが上下に揺れていた。そんなにアピールしなくていいのに、だがかごに目を戻すと彼女が選んだ3枚のDVDと俺が選んだ2枚のDVDがある。うん、そうだね。

「戻して来て、それかどれかと変えて。4枚は駄目だよ、それに名前新作ばかり借りてる」

「見たいの4枚あるって言いました!」

「いつ?」

「さっき」

「よくそんな嘘言えるね……わがままは駄目だよ、約束したじゃないか」

「じゃあ自分で払う。いいよヒロトがねちねちうるさいってこと分かったから」

困ったな。この後スーパーでビーフストロガノフの材料を買う予定だったのにスーパーに行く以前に彼女怒って帰っちゃうんだろうな。名前の妬ましさを含んだ目の内側はきっと「お願いお願い!」なんていう可愛らしさがあるんだろうな、そう結論に達すると俺は自分のDVDを棚に戻し名前のDVDをかごに入れた。すると彼女は急斜面並みに上がっていた眉を平行に戻し歓喜を表すかのように口元は開け目を輝かせた。おもちゃを買ってもらう子供みたいな笑顔に安堵した。

「ヒロト大好き!」

「もう、本当名前って酷いよね。俺も大好き大好きー」

これ以上お願いされないようにささっとDVDを借りてスーパーに寄る。材料のほかにスナック菓子にジュース、梅干、うどん、変なものばかりかごにほいほい入れられ無駄な買い物をした。二人で重い荷物をもって帰宅。名前と一緒にキッチンに立ち、指示を出しながら手を進めるが彼女は途中放棄しリビングで胡坐を掻きながらテレビを見て、眠った。本当にこんな我が儘な子でもいいのかなあ、なんて思いつつも出来上がった料理を持って運んで名前を起こそうと向かった。ぐっすり寝てる、近寄って頬杖しながら睫を撫でてやるとふにゃふにゃ頬を緩ませる名前を見ると少しばかり疲れが飛ぶ。我が儘だけど可愛いから許されるんだな、と痛いくらいに感じたのであった。