財前先輩にミシミシされた頭が痛い。地味に痛い。
頭を擦りながら廊下を歩いていると、ミルクティーみたいに色素の薄い髪の先輩と遠山が何やら揉めていた。ゴンタクレんなや、とかもう少し待てば試合させてやるさかい、とか言ってる辺り遠山がテニス関係でごねてるらしい。遠山の赤い髪が眩しい。
黒に近い赤色だから地毛かと思う人も多いが、実はあいつの赤色は地毛じゃない。定期的に染めているのだ。
「はあああ!?もう少しってどんくらいやねん!」
「もう少しはもう少しや。金ちゃん、大人しゅうしい」
「いややいやや!コシマエと試合したいー!」
「金ちゃん…わがままばっか言うとると…」
そういうとミルクティー色の先輩は腕の包帯を解き始めた。え、怪我してるんなら解いたら駄目じゃね?
ポカンとする私の考えの斜め上を横切って遠山は「ど、毒手だけは勘弁や…!」と怯えだした。ど、毒手ぅ…?何その禍々しい名前…。そうやって私が真剣に考えていると、「あ!佐倉やーん!」と遠山に呼ばれた。「あ、金ちゃん!」と呼び止めるミルクティー色の先輩に振り返りもせずに私のところに来る遠山。おいあの先輩めちゃくちゃ泣きそうな顔してるぞ…。雨の日に段ボールに入れられて捨てられたとかベタな展開にあった子犬みたいな顔してるぞ…。
「佐倉なんでここに居るん?」
「いや、遠山が居ないから探しに…」
「なんや佐倉、そんなにワイのこと好きなんー?」
「ニヤニヤすんな」
いよいよ本格的に無視された先輩は「金ちゃん…ええ子にしてや…」と呟いた後、包帯を巻き直しながら去って行った。だから解かない方が良かったんじゃ…。そう思っていると遠山がいきなり「チッ」と舌打ちした。……えっ?
「あいつワイが怖がっとるフリしとるっていつ気付くんやろなあ」
「く、黒い…遠山が黒い…!てか毒手ってなに?」
「聞いとったん?」
「うん…まあ?」
「うわあ恥ずかしー…。佐倉には見られとおなかったわ…!」
「で、毒手ってなに?」
「焼けた砂と毒とを交互に突き続けて二週間苦しみ続けると毒が染みてその手に触れし者は死に至る…」
「…は?」
「っちゅーのを漫画で見てなあ…純粋やったあの頃のワイは信じてしもたっちゅーわけや…」
「いやいやいや、明らかに嘘ってわかるでしょ!信じちゃったの!?えっ!?なにそれ遠山かーわーいーいー!」
「かわいくないわっ!せやから佐倉には見られとおなかったんやー!白石のアホー!」
「ふーん、それで白石先輩?は遠山が毒手を未だに信じてる純粋な少年だと思ってると…ププッ」
「ワイはコシマエと試合したいだけやっちゅーに…ちゅーか笑うな」
「コシマエ誰やねーん…」
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