◇ | ナノ


「あら…?」


ふと、彼女と目が合った。
眉を潜めて私を観察している彼女は確かに跡部の言う通り、文句のつけようのない美人さんだった。


「えっと……確か…跡部、様のクラスの転校生?」


私がそう言うと、その眉間にあった皺はピンと張られ、代わりに大きな瞳がキッ、と細められる。


「……アナタ、跡部くんのファンクラブか何か?」

「……う、うん」

「……そう。アナタ、跡部くんに夢は持たない方がいいわよ」


フン、と髪を揺らして私を見つめる視線はとてもまっすぐだった。
跡部に夢を持つ、とはどういうことだろうか。跡部を尊敬するに値する人間だと思わない方がいい、……ということではないだろう。跡部の口ぶりからしても、彼女は跡部のことを下に見てはいないはずだ。「え、えーっと…?」素直にわかりませんとアピールしてみると、彼女は小さくため息を吐いた。し、失礼な…。


「アナタみたいな庶民に跡部くんは振り向かないわ。その弱そうな気も、跡部くんの気を引くには足りないわね」


中原さんは跡部を見下してはいないし、嫌ってもいない。だけど、どうやら私のことは嫌いなようだ。いや、私、というよりはファンクラブ、といった方が正しいか。キュッ、と内履きの音を鳴らしながら去る彼女の背中を見て、私はそう思った。


「……まあ、確かにあなたみたいな気弱そうな人は跡部さんの好みではなさそうですね」

「…ひ、日吉くん?」

「さっきの先輩も見る目ありますね」


急に声をかけられ、びっくりして後ろを見ると、見覚えのあるキノコ…髪型の子。思わず口から出てきたのは彼の名前だったけど、彼は気にしていないらしい。というか私の言うことは聞いていないようだ。
いつから見ていたんだ…と軽く恐怖しつつ、「…下剋上だぜ」と呟き、中原さんと同じ方向に去っていく日吉くんの背中を見つめる。
な、なんだったんだ……。



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