◇ | ナノ


「環ちゃんおはよおおおおお!」

「琴乃、おはよう」


朝、跡部宅より普通に歩いて学校に登校。跡部と私が幼馴染みだということは学校の人達には内緒のことだから、跡部宅からカモフラージュもせずに歩くとバレるんじゃないのか、と思うかもしれないが実は私の家が跡部宅の近所なので、跡部宅から出てくるところを目撃されない限り、バレることはない。


「ねぇねぇ、今日A組に転校生来るんだって!」

「へぇ、そうなんだ」


昨日聞いたから知ってるよ、とは言わずに笑った。日本人とはこうやって曖昧に笑うことによって自分の気持を誤魔化してきたのだろうか。スポーツ少女というオーラのにじみ出る琴乃を見ながら、そんなことを考えていた。
側で跡部と同じクラスがどうのこうの、女か男か、それにしても時期はずれだ、と琴乃が話しているのを聞く。
昨日もいつもと変わらず同じベッドで就寝した私達だが、どこか跡部の様子がいつもと違うのが気になる。……あのレギュラーとの接触が跡部の不安を煽ったのだろうか。


「本当、どんな子なんだろう…ね、?」

「どうしたの?」

「ちょっ、ちょっ、環ちゃん!あっ、あれっ!」

「あれ?」


慌てたようにクラスの出入口の方を指さす琴乃。何事かと首を回して見てみるとそこには昨日の夕方に半端無い威圧感で私を威嚇してくださった忍足くんがキョロキョロと教室を見渡していた。探している人でも居るのだろうか、と思い佐藤くんを探してみると、佐藤くんは忍足くんのすぐ側に居た。
じゃあ何の用だろうと首を傾げていると、ふと、忍足くんと目が合う。跡部曰く伊達眼鏡らしいけど忍足くん、眼鏡似合うなあ、とか現実逃避をしてみる。


「ちょお、一緒に来てくれへんか?」

「えっ、あっ、は、はい」


周りから「えーっ!」とか「いいなあっ」なんて声が上がる。琴乃も「環ちゃん良かったね!」なんて言ってる。そんな私の心の声は“やっぱり私でしたかー!”である。
昨日のレギュラー遭遇事件もあったし、私が忍足くんに呼び出される理由はある。……あれ、でも忍足くん達には、私、ミーハー?というかテニス部のファンとかに思われてるはず…じゃあどうして?
そんなことを思いながら、無言で人気のない廊下の方へ歩いて行く忍足くんの後を着いて行くと、廊下の突き当りのところに出た。ここは人も少なく、実は隠れた告白スポットになっていたりする、らしい。
前を向いていた忍足くんがこちらを向く。……跡部が一目置く存在だ。もしかしたら忍足くんは私と跡部の関係に気付いたのかもしれない。関係とまではいかなくても、私たちの間になにかしらあることに気付いて、事の真相を、手強そうな跡部ではなく、チョロそうな私に聞きに来た……といったところだろうか。


「アンタ、昨日俺たちが部活終わった後、テニスコートの方に行ったやろ?」

「は、はい」

「……何も取ってへんやろな?」


はい、全然違ったー!跡部の馬鹿!何が鋭いだよ!まったく疑問にすら思われてないよ!声変わりにより大人顔負けの低音ボイスを更に低くした声で忍足くんはそう言った。
伊達眼鏡のその奥の瞳はギラリ、と光っている。……確かに、手強そうだ。嫌悪感を帯びたその瞳から目を逸らし、精一杯可愛い声を出すため、小さく咳払いをした。


「えーっ、そんなわけないよ!ただ、跡部様が部室に居るかも、って思って、一目見たかっただけだよっ。跡部様には会ってないし、鍵を閉めて帰るところまで見てたから、私は中に入れなかったし…」

「……なんや、鍵が開いとったら何か取るつもりやったんか?」

「、…そんなわけないよ」


跡部に心配をかけたくないと思ってミーハーっぽくしてみたけど、案外忍足くんも鋭い。言葉の揚げ足を綺麗に取ってくる。……忍足くんがここまで疑ってくるってことは、もしかして何か無くなったのだろうか。
どの道、忍足くんとの接触は跡部の耳に入るだろうし、宥めついでに聞いてみようかな。そう思い忍足くんの顔を見る。随分と整った顔だ。みんなが騒ぐのも分かる。はぁ、と溜息を吐きたくなる衝動を抑え、私は話を変える作戦に出ることにした。


「そういえば、忍足くんの眼鏡オシャレだよねっ」

「は?そないなこと今関係あらへんやろ」

「い、いや、その、……忍足くんかっこいいよねっ」

「そらどーも」

「……手強い」

「なんか言うたか?」

「うっ、ううん!なんでもないよ!……あっ!そろそろ予鈴鳴っちゃうね!授業に遅れたら忍足くんに悪いし、ばいばいっ」


話を変えるどころか忍足くんの圧力に耐え切れなくなった私は、とりあえず逃げることにした。
忍足くんの返事を聞かずに走りだしたけど、何も言ってこない辺り私にうんざりしてきていたのであろう。はぁ、と走りながら溜息をつく。


「、わっ」

「きゃっ」


そうやって走っているとき、女の子とぶつかりそうになった。片手に双眼鏡のような何かを持った女の子にごめんっ、と小さく一言謝りを入れて、また走りだす。うわあ、すごい美人さんだった。氷帝は広いけど、あんな美少女居たんだなあ、なんて思いながら教室に駆け込んだ。
忍足くんが昨日と今日のことを、はやく忘れますように、と願いながら。




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