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「芹!」


立花先輩と鉢屋と別れ、小雪を見に生物委員会が管理する小屋へ行こうとしたところを、尾浜に見つかった。
溜息を吐いた私は悪くないと思う。


「さっき鉢屋と一緒に居たよね?何してたの?」


お前はいつ見ていたんだ、という言葉を飲み込み、「天女様の観察会だよ」と笑った。
皮肉げな私の口調を感じ取ったからか、尾浜は「へえ、」と何かを考える素振りを見せた。


「どうかしたの?」

「いや、どんな馬鹿なんだろうなあって思って」


ははは、と笑う尾浜に私もははは、と笑う。然りげ無く毒を吐くな。毒を。
しかし尾浜が、私が言うのも可笑しいが、私以外の女性に興味を持つなんて珍しい。
天女様は見た目的に私と同じ…いや、利吉さんより少し下といったところだし、尾浜ならまだまだ許容範囲だろう。…まあ、少し歳をとりすぎているような気もしなくはないけど、くの一に進んだ先輩で20になってから夫婦になった人も居るんだし…。うん、尾浜に天女様、いけるんじゃないかな!


「芹、何考えてるの」

「別に。鉢屋は天女様のことどう思ってるんだろうなあって」

「……俺と居るときは、他の男のことなんか考えないでよ」


と、弱々しい声で言いながら私に抱きついてきた尾浜。…やっちゃった、地雷踏んじゃった。
ぎゅうぎゅうと痛いくらいの力で私を締める。違う、抱きしめる。


「芹はただでさえ俺のこと見てくれないのに、違う男のところに行かれたら、俺、何するか分かんないよ」

「鉢屋は友達でしょう?」

「そうだよ、わかってる。鉢屋は友達。大切な仲間だ。殺すわけなんてない。ありえない、はずなんだ。でも、時々わからなくなるんだよ。友達なのに、芹と話してるところとか見ちゃうと、その瞬間にそいつのことを忘れちゃう。忘れちゃって、敵としか思えなくなるんだ」

「私の嫌がることはしないんじゃなかったっけ?」

「芹は、いじわるだね」


尾浜が自分を抑えて抑えて、我慢していることぐらいわかっていた。ぎゅうぎゅうと締め付けられ、骨がミシミシと軋む音が、その証拠である。体の中から聞こえてくるその音は正直痛いけれど、それを口には出さない。
今にも泣き出しそうな尾浜の声に私は、なるべく優しい声で「勘右衛門」と名前を呼んだ。


「私は勘右衛門と一緒になることはできない。でも、勘右衛門が私以外の誰かを好きなるまで、私は誰とも一緒にならないし、誰のことも好きにはならない」


「約束するよ」と、なるべく優しく笑うと、尾浜は顔を上げ、「ほんとう?」と聞き返してきた。


「指切りしようか?」

「……ううん、いい。芹は約束を破ったことないもん」


にへら、とだらしない笑みを浮かべる尾浜の頭を小突いてから、私は自分の長屋へ向けて足を進めることにした。
あーあ、ますます尾浜から離れなんないや。



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