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「芹、今日は芹、先頭だったの?」

「うん」

「俺、門のところで待ってたのに…忍たまの授業終了よりはやく着くなんてどんなはやさで走ってたの」

「普通だよ。下級生が着いてこれる程度」

「そう…。でも、次は気をつけてよね。俺、芹に会えないと死んじゃうもん」


食堂からずんずん進んだ先の、人通りの少ない縁側に座り、そんな会話をする。
犬のように擦り寄って「好き」と眠たそうな声で言う様子に私は何を言ったらいいのかわからない。


「尾浜、」

「勘右衛門」

「……あのね、勘右衛門。私言ったよね、けじめをつけなさいって」

「…つけていいの?」

「……」

「俺が霞に『芹のことが好きだからもう近づくな』って言ったら芹が悲しむでしょ?霞は芹のこと恨んだりしないと思うけど芹が罪悪感を感じるでしょ?それに、けじめをつけても芹は俺を好きになってはくれない。芹が損をするだけだ。そんな無駄なこと、する必要ないでしょ」


勘右衛門の言い様にむ、としたが事実なので口を噤む。
霞は勘右衛門が好き。勘右衛門は私が好き。私は…霞も勘右衛門も好き。だから、今の状態が苦しい。霞と勘右衛門が幸せになれば私的には大円満なのだ。私は、どちらも友達として、好きなのだから。


「でも、私は今の状態が嫌なの。霞が勘右衛門を好きな事ぐらい、分かってるんでしょ?」


苦しいのは、勘右衛門が霞の気持ちを分かった上でこうしているからだ。
正直、勘右衛門は盲目すぎだと思う。私の何が良いのかさっぱりわからないけど、人の感情なんてわからないし、趣味もわからない。勘右衛門がそういう感覚の持ち主だと思えば、納得もできる。
ただ、勘右衛門の感情の向け方がどうやっても納得できないのだ。どうしてこうも一人だけを見ていられるのか。人間、好きでなくても見目の整った異性に言い寄られれば多少なりとも心が揺らぐはずなのに、勘右衛門はこの状態をもう一年も続けている。
決して霞が奥手だということではない。むしろ積極的な方だというのに、こうも揺らがないとなると、異常だ。その上私はなるべく霞の方へ揺らぐよう、冷たく接してみたり、霞を褒めちぎってみたり、今回のように会う時間をずらして意図的に霞と合わせたりしているのに、だ。


「芹以外の人に好かれてもなんとも思わない。……ねえ、芹、どうしたら芹は俺のこと見てくれる?俺、前にも言ったけど、芹のためならなんでもするよ?」

「…じゃあ、私のことは諦めて霞とか、もっと他の可愛い子を好きになりなさい」

「それはやだ」

「…なんでもするんじゃないの?」

「芹が俺を好きになってくれるなら、だよ。そんなことしたら本末転倒だよ」

「……分かってるんなら、諦めなさいよ。勘右衛門は辛くないの?好きな人に辛く当たられて、一年も見向きもされなくて、」

「辛くないよ」


即答する勘右衛門に私は目を丸くする。
そういえばこんなに長く話したのは初めてかもしれない。いつもは読書をしている私に勘右衛門が無言でひっついているといった感じだったから。


「半年ぐらい前にね、芹、言ったでしょ?」

「……何か言ったっけ」

「『尾浜はもっと欲張りになってもいいと思う』って。だから俺、芹に好きになってもらいたいって思うようになった。言うようになった。でも、別にいいんだ。芹が、俺が芹のことを好きでいさせてくれるなら、本当は何もいらないんだ」


「えへへー」と先ほどの霞のように頬を染め語る勘右衛門。
そうは言っているけど、こいつは無意識に私に近づく男を睨む傾向がある。きっと独占欲の塊のようなものなのだろう。殺気が出ていないだけ自制できているのか、それとも無意識な時点で駄目なのか。どちらにせよ霞と勘右衛門がくっついたときには苦労すること間違いなしである。いや、でも霞は馬鹿みたいに一途だから勘右衛門が今みたいになることはないのか。うーん、やっぱり二人はくっつくべきじゃないかなあ。お似合いすぎる。


霞は勘右衛門が好き。勘右衛門は私が好き。……じゃあ、私は?友達としてではなく、恋の意味で、私は誰が好きなんだろう。



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