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「芹!」


愛らしい笑顔を浮かべ、しかし忍者らしく足音も立てずにこちらへ走ってくる霞に軽く手を挙げる。
下級生と共に裏裏裏山までのマラソンを終え、食堂へと足を進めていた足を止め、霞がこちらに来るのを待つ。
霞が私の元に来るのにそう時間はかからず、「食堂まで一緒に行こ?」と笑った。「うん」と短く返事すると、「えへへ」と、また愛らしい笑みを浮かべた。
その愛らしい笑みで何人の忍たまを虜にしてきたのか、そしてこれからどれだけの人を虜にしていくのか、少しだけだが気になった。変な男に捕まらなければいいんだけど。くの一として優秀といえば優秀なんだけど、霞はどこか抜けているから…。


「聞いて聞いて芹!」

「なに?」

「さっきね、マラソンから帰ってきたとき、門の所で勘ちゃんに『お疲れ様』って言われたの!んー、嬉しい!」

「そっか、よかったね」


にこにこと頬を緩ませる霞。
くノ一教室において実質最高学年の私たちは二人しか居ないため、下級生たちと授業をするときは必ず二手に別れる。今日のマラソンでは私が先頭を、霞が最後尾を走った。そのため到着にズレが生じていたのだ。私が先に学園に帰って来た間にそんなことがあったのか、と思う。
頬を桃色に染め、なんとも言えぬうっとりとした表情を浮かべる霞に心がちくり、と痛む。

その後も霞の語る“勘ちゃん自慢”に相槌を打っていると、いつに間にか食堂に着いていた。「あ!」と嬉しそうな声をあげ、食堂の中へ入っていく霞をぼんやり見ながら私も食堂に入る。
「勘ちゃん!そ、その、奇遇だね!」という霞の声が聞こえるから、さっきの嬉しそうな声は彼が居たから、という解釈でいいようだ。「あ、奇遇だね。…そういえば、芹は?」かなりどうでもよさそうに返事をしたように聞こえたが、気のせいにしておこう。


「芹なら、ほら、そこに居るよ。……どうして?」


不安げな霞の視線に私は溜息をつく。普通ここで他の女の名前を出すか?ありえない。色々ありえない。
私の溜息が聞こえたのか、どうなのかは本人しか分からないことだけど、「ん、委員会のことでちょっと用があって…」という声が聞こえた。
嘘つけ、委員会のことでって、仕事も何も無いじゃないか。ガタリ、と席を立つ音が聞こえた。


「芹、ちょっと来て」


有無を言わせぬ声色に私は大人しく着いて行く。「勘ちゃん!」という霞の声に、私はまたちくり、と心が痛んだ。


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テーマ「人外ファンタジー」
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