どうやら天女様は行く宛もないらしく、学園に事務員として住まわせてもらうことが決定したらしい。それにしてもお世辞にも清々しいとは言えない朝だなあ。
「ふあああ、」思わず漏れた欠伸に同室の霞が反応して「お、はよう…」と笑った。霞よ、目が眠いと語りかけてくるのだがどうしたらいいんだ。
「今日からでしょお?てんにょさまが働くの…」
「そうらしいね。はい、霞、顔洗いに行くよ」
だらしなく目をこする霞の手を引っ張り井戸へ向かう。
眠たいです、という雰囲気が出まくりな霞だが、腐ってもくの一のたまご。足音はしなかった。
女の子の寝起きの顔は酷い、と行儀見習いとして学園にきていた、もう居ない女の子の話を思い出したが、霞の寝起きの顔はむしろ庇護欲をそそられる。
「あ、」
眠そうな声で霞が声を上げたから何事かと前を向くと、そこには天女様が顔を洗いに来ていた。
うん、やっぱり寝起きの顔は酷い。天女様の顔を見て、失礼だとは思うけど思った。
ぱちり、と合った視線に戸惑いながら、それを悟られぬように「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」と、しれっと言ってみたところ、
「ふん、話しかけてんじゃないわよこのモブが」
というお言葉をいただいた。
刺のある言い方だったから恐らく悪態をつかれたのだろうが、もぶとは何だろうか。馬鹿、阿呆のような言葉で、藻無、とでも書くのだろうか。
霞も同じ事を思っていたのか、「なんなんだろうね」と首を傾げていた。
なにわともあれ、霞の眠気が飛んでいったようだから良かった。ありがとう、天女様。