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「なー、今日転校生来るんだってー」

「知っちょる」

「まじかよ」


楽しそうにそう話しかけた少年は表情を一転させ、至極つまらなさそうに唇を尖らせ、「見たことあんの?」と聞いた。


「ある」

「まじかよ」

「パツキンなり」

「それ、前も言ってたよな?まさかお前、あのとき転校生に会ったのかよ!?」

「ピヨッ」

「まじかよ…」


さて彼は一体何回まじかよと言ったでしょうか。答えは三回です。どうでもいいですね。どうでもいいついでに、彼らは普通に話していますが、先生はもう来ています。


「そんなわけで、入ってこい、転校生」

「おっ、きたきた!」


先生の声に、待ってました!とばかりに正面を向いた少年とは反対に、おかしな訛りの少年は興味が無いようで、机に突っ伏していた。
もちろん、先に転校生と会っていたというのもあるが、それよりも彼は眠かった。不眠症の気があるのかないのかそれは定かではないが、彼は中々寝付けない人間故に学校で寝ることが多いのだ。今日とて例外ではない。


「転校生の涼宮ハルヒ、ただの人間に興味はありません。この中にこんにゃくゼリーを喉につまらせたことがある人は私のところに来なさい。以上!」

「ぱ、パツキン…つーか強烈…」


クラスメイトの鈴木が転校生にツッコミを入れていたが、そんなことは彼の頭の中に入ってきてはいなかった。
おいおいまじかよ。確かにパツキンとか聞いてたけどあそこまで綺麗なパツキン初めてみたぜ…。地味に痛んでるけど。彼は金髪の彼女と自分の髪を見比べた。いくらなんでもあそこまで綺麗に染まらねーだろぃ…。つーか何で俺、パツキンって言ってんだ?
彼の自慢かどうかそれは本人しか知りえないことだが、鮮やかな赤髪は多少痛んではいるものの、一目しただけでは分からないレベルであった。


「仁王仁王!あいつの髪の毛やばくね!?」

「じゃから知っちょるって…ブンちゃんうるさいなり」

「ブンちゃん言うな」


不機嫌そうに答えた仁王は、その痛みを知らぬ銀色の髪をサラリとかき上げ、眠たそうに「寝る」と一言だけ言った。
暗に、だからうるさくするなという意味も込められていたのだが、丸井はお構いなしに「はい!俺!俺の隣空いてるだろぃ!」と転校生の席決めに口を挟んでいた。ばかじゃろ、転校生の席ぐらい先生が事前に決めとるじゃろうに。夢の世界へと入ろうとしている仁王は、落ちていく意識の中そう思った。