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立海大付属中学校2年B組は他のクラスと少し違い浮き足立っていた。
それは転校生が来るという、どこから回ってくるのか学校の七不思議に加えるべきなほど謎な生徒間での噂話のせいであった。
先生は言ってないし、転校手続きなどで使われた書類などは学校側が厳重に保管しているため、たかが一生徒の目に触れることなど零に等しい。…あくまで普通の、生徒の話だが。


「席に着けー」


40人が収容されているこの教室で、誰か一人は必ず思うだろう。毎朝同じセリフ言ってね?


「せんせー、転校生は?」

「いっつも思うんだけどさ、お前らなんでそういうこと知ってるわけ?」

「先生、気にしたらそこで試合終了ですよ」

「あっそ…」


至極どうでもよい会話で先生が時間稼ぎをしていると気付いている生徒は一体どれだけ居るのだろうか。


「そんなわけで、入ってこい、転校生」

「はい」


高くもなく低くもなく、女であることは分かるが、それ以外特に気にするほどではない、決して小さくない声にクラスは沸き立つ。少なくとも、とんでもなく根暗だとか、とんでもなく不良とか、そういった自分達に害を与えるような存在ではないと感じ取っていた。

現れた少女は、とんでもなく根暗でもなく、とんでもなく不良なわけではなかったが、とんでもなく金色だった。


「転校生の涼宮ハルヒ、ただの人間に興味はありません。この中にこんにゃくゼリーを喉につまらせたことがある人は私のところに来なさい。以上!」

「おかしいだろっ!なんでこんにゃくゼリー!宇宙人とか未来人とか超能力者とかじゃねーのかよ!」


間髪入れずに成された突っ込みにクラスの半分以上が感動した。もっとも、突っ込みを入れた本人は無意識だったのだが。


「うーん、ナイス突っ込み。でも月並みだね。80点」


しかし転校生は手厳しかった。


「ほら、安里。冗談もほどほどにして、自己紹介しろ」

「はーい。えーっと、安里雪って言います。あ、安い里の雪でアサトススギね!趣味は特になし、友達は大切にする系女子でーす。あ、金髪だけど根は真面目です!真面目です!」

「二回も言わんでいいぞー。はい、じゃあ安里の席だが…」

「はい!俺!俺の隣空いてるだろぃ!」

「空いてるんじゃなくて来てないだけな。おっ、鈴木、お前の隣空いてんじゃん。鈴木ー、手ぇ上げろー」

「はい」

「えっ、スズキくん!?頭巾ちゃん以上に月並みなつっこみしか出来ない上に名字まで月並み!?」

「誰だよ頭巾ちゃん!俺は頭巾ちゃんと同類なわけ!?」

「うっわしょーもねえつっこみ…60点」

「下がった!?」

「どうでもいいけど早く席に着けよ安里」