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人の気配の感じられない、薄暗い体育館裏。緑を取り入れるために植えられた木は大きな影を作り出し、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。「…………このような場所へ誘うということは、私を殺すつもりでいるのか?」先に口を開いたのは刃音であった。挑発的な笑みを浮かべ、雪の様子を伺う。しかし雪はその挑発に興味を持った様子はなく、背を向けたままであった。


「柏木さんは、さ。私の兄が貴方のお兄さんを殺した…って言いたいんだよね?」

「そうだ」

「それ、ちゃんと合ってる?…っと、こんな言い方は無いか。柏木さんはそのことをどこまで知ってるの?」

「どこまで、だと?貴様の兄である零崎双識と新たな零崎と…顔面に刺青を施した白髪の男に、私の兄たちが殺されたということだ!これ以外に何があるというのだ!よもや当事者の身内である貴様が知らぬとは言わせぬぞ!」

「ふうん…。柏木さんの中ではそれが真実だ、と。ふんふん、なるほどね。で、柏木さんは私に何がしたいんだっけ?」

「ふん、決まっている。私は兄達が成し遂げられなかったことを成し、貴様ら零崎に復讐を果たすことだ!」

「私に復讐かあ……」


ふふふ、と雪にしては珍しい、芝居めいた笑いに刃音は眉を潜める。まるで誘導尋問のような会話に気付いているのか、否か、どちらであっても刃音の心中は穏やかではなく、はやく会話を終わらせてしまいたいという思いでいっぱいであった。もちろん、雪が零崎一賊の者であるということを自らの口から言わせるということも忘れてはいなかったが。
くるり、雪は刃音へ向き直った。そしてにっこりと、気持ちの悪いほどの笑みを浮かべて彼女は言った。

「よーくわかりました。柏木さんが事の全貌を知らないこともね」

「………なんだと?」

「かくいう私もよくわかっていないんだけど…」


言葉を切った雪。馬鹿にしおって、とでも言いたげな刃音の鋭い眼光を物ともせず、彼女は笑って続けた。


「復讐したいんだったら、まずは私を殺してみることだね」

「言われなくともそうさせてもらうさ。貴様のような小娘ぐらい今すぐにでも殺せるがな」


雪の挑発を刃音は鼻で笑い馬鹿にする。私より細い手足、零崎にしてはまるで無い殺気、獲物を隠している様子も無ければ、取り出す様子もない。未だに実戦経験のない私だが、安里雪も恐らく同じであろう。


「はは、そう。でもね、私は復讐をされる側じゃないわけ。私も復讐をする側なの。おっけー?」


今度は芝居めいた笑みでも言葉でもなく、いつもの顔で、いつもの調子で、雪は言った。