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「あー、きみ、そこのきみー」

「え?」


学校ならではのまっすぐな廊下で少女は生徒であろう少年を呼び止めた。「職員室ってどこ?」どうやら道に迷っているらしい。めんどくさ、とため息を吐き、彼は声のする方向へ向いた。


「……」

「あ、わたし?私は転校生でねー、来週からここに通うんだー。よろしこ!」


聞いてねーよ。と思いつつ「そーか」と返す俺は偉いと思う。てか、気になってるのはそっちじゃねーよ。てめーの髪だよ。と言わなかったのも誉められるべきだと思う。―――いつもはボケに回る少年がつっこみになるほど、彼女の髪は、金色であった。


「で、職員室は?」

「…あっち」

「おいおいおい、会話しろよ!あっちってどっちだよ!こっちか!」

「いやだからあっち」

「あっち?あっちってあっちのあっち?」

「おん、あっち」

「なるほど、あっちをあー行ってあっちをあっちであっち?」

「そーそー、あっちを…は?」

「いやだからあっちが…」

「あっちってどこじゃ…」

「ほら君が会話しないから!あっちなんて言われてもわかんねーよ!」


てめーがあっちを繰り返すからだろ。少年は今度こそ口に出しそうだったが思い止まった。


「この角を曲がって、まっすぐ」

「あれ、意外に近い…」

「…あ」


しまった、と少年は思った。実を言うと、あっちを繰り返していたのは道案内などしたくなかったからである。少年は大層な偏見の持ち主で、女、というだけで関わりあいを拒否するのだ。じゃあニューハーフは?と疑問が出てくるがそこは聞いてはいけない部分だろう。「んじゃ!」と金色をなびかせ駆けていく少女の髪は、地味に痛んでいた。指通りの悪そうなその髪は太陽に透かすと、まるで飴細工のようだった。


「あ、おーい、なにやってんの?」

「…パツキンなり」

「は?」

「ピヨ」


彼はあんなパツキンとはもう関わりたくないと思った。
気になったのはパツキン、それだけ。彼にとって金髪だろうがそうでなかろうが彼女は周りの女共となんら変わりないのだから。