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劇的キャラチェンジを果たした稜威くんもといポニーちゃん(陽織命名)はどうやらアメリカ在住らしく、「主様の近くに居たいっす」と言うポニーちゃんをなんとか言い伏せた陽織。流石に小学校ぐらいは今居るところを卒業しようぜ、という陽織の配慮である。たまたま東京へ来ていた闇口と契約できるとかどんな縁だこれ…と若干引いていた陽織だが、稜威の無愛想ながらも可愛気のある態度に、いい拾い物をしたかもしれない、と考えを改めていた。


「“では次のニュースです。京都にて、また殺人事件が起こりました”」


テレビで流れるニュースを流し見ながら朝食を食べる雪。彼女の横には同じく朝食を食べる暖。二人の食べ方は対照的で、ダラダラと口に物を運びいつまでも口の中で咀嚼し続ける雪と、テキパキと口に運び必要なだけ噛み嚥下する暖。


「“今週に入ってはやくも三人目、警察は同一犯のものとして調べを続けています”」

「ごちそうさま」


結局先に食べ終わったのは美しく食べていた暖であった。その箸の進むスピードから察するに未だ夢心地であろう雪は暖に「おそまつさまー」と気の抜けた声で答えている。しかしパッチリ目の覚めている暖はそんな雪を一瞥しただけで、何も言わなかった。恐らく雪からの言葉など期待してはいなかったのだろう。


「んー…ひなた、けーたい鳴ってるぜー」

「…赤也からだ」

「ワカメくんかーい…」


「ひなたばっかりー、ずるいぞーう」と気の抜ける声でブーブー言う雪に見えぬようにほくそ笑んだ暖はもったいぶったように携帯を開いた後に「もしもし?」と電話を繋げた。《なんで起こしてくれなかったんだよ!》という赤也の声が漏れていたが、雪はそれに興味が持てず、食事中であることを気にせず携帯を開いた。


「……」


ナイスタイミングというべきか、一件のメールを雪の携帯は受信した。いや、メールだけなら雪も携帯を閉じ、食事に専念しただろうが、それは先日契約を交わしたばかりの稜威からであった。“おはようございます。そちらは快晴のようですね!アメリカに着いてしまいましたが、親父に主様のことをお話したところ来年には主様のところへ行けそうです!主様は立海に通っていらっしゃるので俺も立海にしようと思います!”ワンコ丸出しだなおい。陽織は心の中で突っ込みを入れた。しかしポニーちゃんが立海か……うん?ポニーちゃんって確か東京の寺がどうのこうのって言ってなかったっけ…?じゃあ神奈川来たら不味くね?てかポニーちゃんの家が東京にあった方が何かと都合がいいんだけど!と思った陽織は稜威に返信のメールを作成し始めた。
“おはようポニー!快晴ってよくわかったね!ちょっとわたしこわい。うそです。中学ね、東京のほうが都合いいし立海来なくていいよ!ポニーちゃんにはブレザーより学ラン着てもらいたいし。学ラン似合うよポニーちゃん!”明らかに最後のほうが本音であるがそこは突っ込まないほうがいいだろう。


「…お姉ちゃん、はやく食べないと遅刻するよ?」

「え?……あーっ!」


電話が終わった様子の暖の言葉に雪は焦りだす。パタンと携帯を閉じ、急いで朝ごはんを詰め込む姿を暖は冷たく見ていた。……なんて下品な。冷めた目で姉を見る彼女に気づく者は残念ながらこの家には居ない。薄々感づいてはいる雪でも確信はない。


「いってきます」

「暖はやい!」


慌ただしく冷たい朝が、安里家の日常である。