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「おれ、は」

「…うん?」

「…………貴兄が乾きしときには我が血を与え、貴兄が飢えしときには我が肉を与え、貴兄の罪は我が贖い、貴兄の咎は我が償い、貴兄の業は我が背負い、貴兄の疫は我が請け負い、我が誉れの全てを貴兄に献上し、我が栄えの全てを貴兄に奉納し、防壁として貴兄と共に歩き、貴兄の喜びを共に喜び、貴兄の悲しみを共に悲しみ、斥候として貴兄と共に生き、貴兄の疲弊した折には全身でもってこれを支え、この手は貴兄の手となり得物を取り、この脚は貴兄の脚となり地を駆け、この目は 貴兄の目となり敵を捉え、この全力をもって貴兄の情欲を満たし、この全霊をもって貴兄に奉仕し、貴兄のために名を捨て、貴兄のために誇りを捨て、貴兄のために理念を捨て、貴兄を愛し、貴兄を敬い、貴兄以外の何も感じず、貴兄以外の何にも捕らわれず、貴兄以外の何も望まず、貴兄以外の何も欲さず、貴兄の許しなくしては眠ることもなく貴兄の許しなくしては呼吸することもない、ただ一言、貴兄からの言葉のみ理由を求める、そんな惨めで情けない、貴兄にとってまるで取るに足りない一介の下賎な奴隷になることを、ここに誓います」

「…………うん?」

「……」

「……」

「い、いま、なにした…?」

「勝手にアンタ…あなたを、主って決め、ました」

「はい!?」

「……要らなかったら、殺して。要らないってだけは、言わないで」


他意のない本心からの言葉に陽織は戸惑う。どうしてこうなった!頭を抱えて叫びたい気分になった。いやいや、どういう流れで契約の流れになったの?しかも同意なし!目の前で跪く稜威。敬語に慣れていない様子や、先ほどの年上に対して物怖じしない性格や、零崎と知った上で尾行するその自分の力に対する自信を見るところから、普段から人にちゃんとした敬語を使うことなどないんだな、と考察する。だが闇口としての本能か、彼は主の前で跪き、捨てられることを恐れている。死ねと言われれば喜んで死ぬと聞いた闇口だけど、死ねというのは命令で、それは主が望んでいることだから喜んで遂行するんだろう。要らないということは主からその存在を―――闇口としての自分を否定されることだから、恐れているんだろう。困ったような顔で陽織は笑った。


「いいよ、顔上げなよ」

「そ、れは、」

「闇口っていいと思ってたんだよねえ。ほら、め、召使い?便利な足というか馬が欲しかったっていうか…」

「じゃあ…!」

「よろしくね、私の闇口さん」


無愛想な顔から一転、ほころばせながら笑う稜威に陽織は目を奪われる。か、かわいすぎだろこいつ…!しかしその心の中の萌えを悟られぬように「ごほん!じゃ、じゃあ稜威くん…」と話しかけると、その笑顔は次第に強張っていった。


「ど、どうかしたの…?」

「…お、俺みたいな下賤で卑しい屑が主様に名前で呼ばれるなんて…!し、死にます、死にたいっす!」

「大袈裟だなお前!」

「な、ナイフ…ラケット…」

「何を使って死ぬつもりだよ!?……わかったわかった、じゃありょーくんでいい?」

「……」

「…ポニーちゃん」

「馬っすか、いいっすね。主様を乗せる馬…!」


キャラ違いすぎだろお前。