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突然だが、我が妹の安里暖を紹介しよう。
安里暖、彼女は特に目立つような特技もなければパッと目を引く美少女というわけではない。というかぶっちゃけ美少女具合でいったら崩子ちゃんの方が断然上だ。だがよくよく見ればとても整った顔をしており、姉妹らしく私たちは似ている。いや、別に私が整った顔をしているって自慢したいわけじゃないんだけど萌太くんは会う度に綺麗だって褒めてくれるもんだからやっぱり調子に乗っちゃうっていうか…話が脱線した。兎にも角にも私と対になるような名前の暖は目立って人気があるわけではないが、地味に人気があるというわけだ。最も柳に聞いたことであって直接私が見聞きしたわけじゃないんだけどね。

そんな彼女は何故か来年新入部員が入らなければ間違い無く廃部になるであろうハンドボール部のマネージャーをやっているらしい。なんでも部員が三年生九割、二年生一割(しかしやる気なし幽霊部員多し)という最悪な未来しか見えてこない構成らしい。言うまでもなく柳から聞いたことであった私が直接見聞きしたわけではない。そしてそんな暖は切原赤也というあのワカメ少年と同じクラスで、ワカメ少年と仲が良いらしい。かなり。もう一度言おう。私に出会い頭敵意剥き出しで罵倒の嵐、私の人生の中で思い出したくないことワースト10に入るほど酷い出会い方をしたあの切原赤也とかなり仲が良いらしい。おい姉の雪ちゃんとは仲良くできなくて妹の暖とは仲良くできるとはどういう了見だゴラ。…また話が脱線した。当然の話だがテニス部でいきなり三強だとかいうのに喧嘩売って目立ちまくったイケメン君と仲が良いと少なからず女子に妬まれたりするものらしいが、暖はそういうことはないらしい。むしろ美男美女でお似合いよねーと和まれているらしい。言うまでもなく以下省略。一年生の間では暖は三番目ぐらいの美少女らしい。それ故に二年や三年にはあまり知られていないが、暖のさり気ない美少女具合に気付くのは時間の問題だとかどうのこうの。

これで暖の紹介は終わり。他にも言いたいことはたくさんあるけど、とりあえず私は今、言いたいことがある。仲の良い子のお姉ちゃんにぐらい愛想よくしろよおおおお、と。


「…は、え?コイツがひなの姉ちゃん、?」

「そうだよ赤也。ていうか人の姉に向かってコイツはないでしょ」

「そうだよアカヤ!コイツは無いよ!」


雪は自分より幾らか声の高い暖の真似をして言ったのだが、それが切原の神経を逆なでしたらしい。「テメェ…!」と雪を睨んだ。ここで説明しておくと、珍しく部活の無かった暖と切原が一緒に帰ろうとしていたときに、部活がないと聞いて暖と一緒に帰ろうと誘いに来た雪が鉢合わせした場面である。


「…ひな、本当にコイツと血、繋がってんの?」

「本当だよ」

「酷いなワカメくん」

「嘘だろ、」

「…どうしたの、赤也?」

「えっ、スルーかよワカメくん」

「……ひなの隣はこんなに安心するのによ、コイツは、コイツだけは…好きになれねえ」


絞りだすような声の切原に雪は首を傾げる。ワカメって言ったらブチ切れるって言った奴誰だよ!ガン無視じゃねえか!間が悪いということに雪が気付くのはいつだろうか。そんな雪に目もくれず、暖は切原の背中をさする。


「赤也にだって好みがあるんだから仕方ないよ。そりゃあお姉ちゃんを嫌いっていうのはちょっと…嫌だけど」

「っ、ひな、」

「でもだからって赤也のこと、嫌いになんてならないよ。ね?それに赤也がこんなに嫌うんだもん、お姉ちゃんにだって何か問題があるんだよ」


然りげ無く雪を貶した暖だったが、雪はそのことについては触れなかった。暖がどことなく棘を持って雪に言葉をかけるのはいつものことだからである。あれ、私もしかしなくても暖に嫌われてるんじゃ…、そんなことを思う雪とは裏腹に、切原に姉が嫌われているという事実を確認した暖は一人ほくそ笑みながら赤也の背中をさすった。

あぁ!はやく物語が始まらないかしら!