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“愛しの陽織ちゃんへ。人識くんは京都に行ってきます。てへぺろ!”


「何がてへぺろじゃあああああ!」

「ちょっと、図書室なんだから静かにしろよ安里」

「迷惑な確率95%」

「すんませーん。いや、でもさ!お兄ちゃんがさ!京都に行ってきますとかわざわざメールしてきたんだよ!?てへぺろって!てへぺろって!うっざああああ…」


携帯がミシミシと音を立てていることに気がついていない雪は携帯を握りしめながら膝を付き「ジーザス!」と叫んでいる。それを迷惑そうに幸村と柳は眺めていた。こいつ図書室だって言ってんだろ、と思いながら。


「へえ、京都かあ。いいね、一度観光に行ってみたいって思ってたんだ」

「修学旅行は関西方面だから京都には行けるのだがな」

「え、立海って修学旅行あるの?」

「修学旅行はどこの学校にもあるだろ。安里って馬鹿?」

「幸村に言われたくねえ…!いつ?いつあるの?」

「あと一週間と三日、といったところだな」

「……えっ、え、えーっ!私聞いてないよ!?もしかして私だけ行けない感じ!?」

「積立とかあるしね、行けないんじゃない?」

「う…うそだっ!修学旅行って言ったら学生の醍醐味!一生に一度の大旅行!京都とか行き飽きてるけどみんなで行きたい!」


バタンバタンと幸村と柳に訴える雪。知るかといった表情の幸村と困り顔の柳を見て、やべえまじで行けないんじゃんと察する雪。いくら頭がキレる柳であろうと、そういった学校側で決まるゴタゴタには手が出せないということだ。かくなる上は学校に賄賂を渡して…!って修学旅行の進み方を調べてもらって私がそれに付いて行けばいいんじゃん!いやその前に頼めば私、割り込ませてもらえるんじゃね?そうだ、何も学校側にやってもらわなくたっていいんじゃないか!急に目を輝かせた雪に幸村と柳は首を傾げる。


「ふっふー!私、修学旅行行けるわ!」

「……普通に考えて無理だと思うが…」

「まあまあ、そこは雪ちゃんパワーでなんとかなるのさ!いや私の力じゃないけども!楽しみだなあ、修学旅行!」


ウキウキドキドキといったようにはしゃぐ雪を見て、柳はここまではしゃいで行けないとなると気の毒だな、と思ったが、「ふふ、安里ならできそうだよね」という幸村の呟きに、安里なら本当に修学旅行に割り込めるかもしれないな、と考えを改めた。そして、そろそろ図書室の司書がキレる頃に、図書室の戸は開き、生徒が入ってきた。


「弦一郎に刃音じゃないか」

「!」


入ってきた生徒は真田に刃音であった。幸村の声に勢い良く立ち上がる雪と「ここに居たのか」とあくまでも冷静な刃音。二人の様子にまたも首を傾げる幸村と、眉を顰める真田。


「…貴様か」

「やあやあ柏木さん、この前ぶり!」

「精市と蓮二を誑かすのは止めてもらおうか」

「誑かすなんて…友達とお話することの何が悪いのさ」

「鬼に友達?フン、面白い戯言だな」

「えー…鬼って…私は鬼じゃないんだけど…それなんの例え?」

「貴様が認めないことを私は認めぬ。現に赤也に雅治は貴様が鬼であると感じ取り、嫌っているではないか」

「それはあれでしょ、私と柏木さんの相性が最悪なようにその二人とも合わなかっただけでしょ」

「初対面で相性云々がわかるのか?」

「さあね、ワカメくん曰くビビっときたらしいし、一目惚れの反対みたいなもんじゃないの?てか、柏木さん達は何の用があって来たわけ?」


険悪な雰囲気の二人を静観する幸村、柳、真田。幸村は何かを知ってそうな柳に「この二人、何があったの?」と小さく聞くと「この間の昼休みに一悶着あったらしい。詳しいことは弦一郎に聞いた方がいい」と小さく返された。そんな中「あー、やっぱもういいよ。柏木さんの用事に興味とか無いし。私邪魔みたいだから行くわ。じゃーね、幸村、柳」と雪が投げやりに言い、荒々しく図書室を出ていった。やばい、イライラしすぎて零崎しそう、と考えながら足早に去る雪の背中を見つめる幸村と柳。喧嘩ってレベルじゃないだろ…と困惑気味な幸村に、刃音は「何を話していたのだ?」と問いかけた。


「何って…修学旅行の話?」

「あぁ…安里の兄が京都に行ったらしくてな。そこから修学旅行の話をしていただけだが」

「ふむ…兄、か。あやつの家族構成はどうなっているのだ蓮二」

「両親と妹の安里暖、兄の安里宵…だが?」

「その兄は今どこに?」

「全員神奈川の実家で暮らしている。妹はここの付属中の二年生、兄は…確か氷帝の大学の方に奨学金で通っていたはずだ」

「そうか、感謝する」

「…これがどうかしたの?」

「いや、あやつの言う兄が、安里宵のことなのか少し気になって…な。まあどの道修学旅行には来られないことだし、気にするまでもないが…」

「修学旅行には行けると言っていたぞ?」

「何?」

「そう睨むなよ弦一郎。安里には何か手があるんじゃない?すごく自信満々に言ってたし」


ふふ、と笑う幸村に怪訝な顔をする真田と刃音。そんな中、柳は柏木刃音のページに、“何か俺たちに隠し事がある模様”と小さく付け加えた。