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どうしよう、食べ過ぎた。腹から感じる尋常じゃない圧迫感を少しでも和らげようとさすってみるのだが逆効果だったのか吐き気が増しただけだった。
好きな人がケーキバイキングに誘ってくれたからって浮かれすぎた。いつもなら3個しか食べないケーキを調子に乗って20個食べてサラダを5回もおかわりに行ったのが間違いだった。
そう思いつつも隣を歩く好きな人―――丸井が嬉しそうに「美味かったなあ」と呟いているのを見ると、吐き気なんか忘れて頬が綻ぶのだ。嘘、やっぱり気持ち悪いものは気持ち悪い。
ぐるぐると私の腹の中でうごめく嘔吐感を悟られまいと平然を装い歩く。お腹は気持ち悪くて、心臓はばっくばくで、頭はオーバーヒート寸前、なんてちぐはぐなんだろう。


「なんか急に誘って悪かったな」

「ううん、丸井が誘ってくれて嬉しかったよ」


「え、」と、丸井の戸惑ったような声にはっと我に返る。な、なに言ってるんだ私!それじゃまるで丸井に好意を寄せているみたいな、いや、間違いじゃないけど!
そんな私の混乱を知ってか知らずか、丸井は照れたように「そ、っか。はは、ありがとな」と更なる爆弾を落としてくれやがった。ばか、そんな反応とられたら勘違いしちゃうじゃないか。
もう何が何だかわからなくなって、自然と早足になる私の腕をとって丸井が私の足を止めた。


「あの、さ…」

「な、な、なに?」

「そ、その…あー、ど、どうして俺がお前をケーキバイキングに誘ったと思う?」


し、知るかよ!なんだよその質問!二人っきりでデートみたいだなあとか思ってましたけど何か!?と言いたかったけど顔が真っ赤な丸井を私の頭はいい方向にしか解釈してくれなくて、「わ、わかりません…」と、最後の力を振り絞ってわからないふりをしておいた。


「あ、そ、そか…」

「い、いや!わかる!いやわかんない!」

「どっちだよ!」

「私の口から言えるわけないじゃん!自意識過剰にはなりたくないし!」

「なれよ!」


何故か喧嘩腰になっていた。向い合って丸井の顔を改めてよく見てみるとうわーこいつ男のくせしてまつ毛長すぎだっつーの、とか、グリーンアップルの匂いがする、とか、「好きなんだよ!」丸井の声にドキドキするとか、「え?」


「だから!俺は!お前のことが!好きなの!」

「は、はあ…」

「好きだから今日、で、デートに誘ったんだよこのばか!」

「ば、ばかとは何よ!このばか!私だって好きだからOKしたのよばか!」


言ってからお互いの顔の距離がものさしで測ると恐らく10センチあるかないかの距離であると潔く気付き、今までの勢いはどこへいったのやら急に黙ってしまった。
え?え?丸井は私のことが好きで?ケーキバイキングはデートで?私は?丸井が好きで?つまり?


『両思い?』


丸井と私の声が重なった。ごちゃごちゃと思案していたからなのか、それとも気持ち悪かったのも忘れて大きな声を出したのかはわからないけど、ボロボロと涙が零れてきた。


「お、おい、なんで泣くんだよぃ!」

「わ、わかんないし…てか両思いなの?」

「そう、なんだろぃ」

「はは、そっか、両思いか、へへ」


涙を流しながら笑えば、「ちゅーしていい?」と丸井が聞いてきた。おいおい丸井くんやい、手を出すのがはやすぎないかいと思いつつ「じゃあブン太って呼んでいい?」と言えば「いいぜ、名前」という返事とともに私の唇にブン太の唇が重なった。


「あー、幸せすぎて気持ち悪い」

「なんだそれ」


いつの間にか吐き気による不快感は消えていた。


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