N | ナノ



いち、にの、さーん!なんて金ちゃんが元気な声で私の先を歩く。少し風の強い今日にどうして金ちゃんは寄り道なんてしたいと言い出したのだろう。
大切に使っているラケットをいつもの袋に入れたものを肩から提げて、四天宝寺のジャージをひらひらさせながら歩く姿は私の知る金ちゃんと何ら変わりないはずなのに今日は少しだけ違って見えた。
それが夕日のせいなのか、はたまた寄り道に誘われてたこ焼き屋さんへ行かなかったからなのかは分からない。いや確実に後者だと思う。今日の金ちゃんはどこかおかしい。


「金ちゃん、どこ行くん?」

「内緒やー!」


こちらを振り返らずに金ちゃんは言った。
金ちゃんはずんずん進むけど私は正直進みたくなかった。だってこの先にあるものなんて言ったら、少し寂れた公園だけだから。金ちゃんのことだし、きっと遊ぼうだとかそんなところだろう。もう少しはやければ遊ぶ気にもなったけれど、空もほどほどに赤い今はそんな気分じゃない。はやく帰りたい。

懐かしい公園の入り口が近づいていることがわかった。そういえばもう何年も来てないな、と思うが、よくよく考えてみれば、この公園に最後に来た日に遊具は全て危険だから、と取っ払われていなかっただろうか。


「名前、こっちやこっち!」

「ちょ、金ちゃん、ここには何もない、」


は、と言葉を飲み込んだ。金ちゃんに引っ張られて踏み込んだ公園は、私の記憶の中とはまったく違っていたから。
錆びた遊具がないのは当然だけど、閑散と、どことなく近寄りがたい雰囲気を纏っていた公園の空気は一変して、色付いていた。


「わあ、」


感嘆の声が漏れた。ふわり、と少し優しい風が吹くと、昔にはなかった淡い桃色の花びらが舞った。
一面、花で埋め尽くされた花畑にしばし放心する。桃色、白色、薄紫色、様々な色と種類の花がところ狭しと並んでいる。花に詳しくないのが悔やまれる程に。


「すごいやろー!」

「うん、すごいよ金ちゃん!こんなにいっぱい花が咲いてる所、初めて見た!」

「そやろ?名前に一番に見せたかったんや!」

夕日を浴びて眠りにつこうとしている花々はおだやかにそよいでいた。

「金ちゃん、よくこんなところ見つけたね」

「名前のために見つけてきたんや」

「私のため?」

「おん、なあ、名前、聞いてくれる?」


「そや、」と花々のようにおだやかに笑う金ちゃんに私はあぁ、と納得した。金ちゃんがいつもと違って見えた理由が、いまわかった。


「ワイと、付きおうてください」


こんなにかっこいい金ちゃん、初めてだ。


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -