提供していただいたネタより
「謙虚な女の子とヘタレ赤葦」

窓から入ってくる風を感じて、黒板の前の教師から、窓へと視線を移すと、隣のみょうじなまえがなるべく音を立てないようにゆっくりと窓を開けていた。俺の視線を感じたのか、こちらをパッと見ると「あ、ごめん、寒い?」と眉を下げた。「いや」と首を振ると、窓を半分まで開けた。

「暑いのか寒いのかわからないね、この時期」
「…そうだな」

ひっそり、呟くように言ったみょうじに、特に面白い返しもできずに同意する。そこで会話は終わってしまった。1日に一度話すか話さないかくらいの距離感。嫌な気はしていなかった。

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「赤葦くんって恋とかするのかな?」

お昼休みにお弁当を食べていると、不意に友達が呟いた。他の子達も、気になる気になる、と笑っている。赤葦くん…あまり笑ったところが見たことない。確かに用事以外で女の子と話すところも見たことがない。

「なまえ隣でしょう?なんか聞いたことないの?」
「え!いやいや、席が隣ってだけで、特に話さないし」
「だよね」

それでも女の子の想像と妄想は止まらない。実は女好きだったりして、本当は男のコが好きなのかも、など適当に言ってみては、可笑しくて笑う。生産性はないけれど、女の子同士の話は止まることを知らなかった。

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隣をちらりと盗み見ると、相変わらず整った顔がある。この前こっそり覗いたノートに整った字が連なっていたのを思い出した。小さな落書きが幾つか書いてある自分のノートを、少し赤葦くんから遠ざけた。

配布するはずのプリントを忘れてきた先生が、職員室に取りに行くために教室から出た途端、緊張が解けたように教室がざわつき出した。こういうとき、周りに友達が居たら話すことができるのに…と、楽しそうにお喋りをするクラスメイトを見ていると、板書を写し終えたのか、赤葦くんがシャーペンを置いた。

「…字、綺麗だよね」

ぽつりと言葉を放つと、相手にしっかり届いていたようで、赤葦くんがこちらを向いた。「そうか?」と自分のノートを見つめている。「私より全然綺麗」と言うと、「たまに、絵描いてるよな」と呟いた。いつのまにか見られてたのか、と恥ずかしくなって前髪を直すふりして顔を隠した。

「赤葦くんって、好きな子とかいるの?」

わたしが突然呟いた言葉にかすかに驚きを見せた赤葦くん。つられて何だかわたしも、なんでこんな事言ってるのだろうと気まずくなる。

「それ、気になることか?」

不思議そうに首をかしげた赤葦くんに、引くに引けなくなってしまっているわたしは「う、うん!ほら、モテるでしょう、赤葦くんは。かっこいいし」と食い下がる。

じっとこちらを見たと思うと「…みょうじのほうが、モテるだろう」と小さく呟いた赤葦くん。「ええ!どこが?全くだよ!」何を言いだすんだ、と手を振って違うことを示すと、「なんでだ?普通にか…」と静止した。するとタイミングよく先生が戻っきて、教室のざわめきはピタリと止んでしまって、もう一度聞くこともできなくなった。

普通にか?普通に、か…?

ふ、普通にか、わいい…とか…いやいやいやいや、まさかそんなことないよ赤葦くんに限ってまさかそんな。だってかわいくないしたぶん、普通に、か、か、……なんだったんだろう。すごく気になる!

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今俺は何て言おうとしたんだ?あそこで教師が戻って来なかったからきっと口走っていた。かわいい、なんて、いきなり言われても困るだろう。というより、きっと教師が戻って来なくても言えなかったと思うけれど…それくらいのこと、木兎先輩なら普通に言うのだろうか。

そっと隣を見るとみょうじは顔を赤くしたり、何かを否定しているのか首を振ったり忙しなく表情をかえていた。少し緩んだ口許を手で隠すようにして、綺麗だと言われた字が並ぶノートに視線を戻した。
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