一つ年下の京治くんと付き合ったのは高校二年の時。大人びた彼を一目見た時からきっと、恋に落ちていた。それは彼も同じだったらしく、何度か二人で遊びに行ったりしていく度に彼の魅力に惹かれていった。

そして、高校三年生になった春に、私は梟谷学園を家の都合で転校せざるを得なくなってしまったのだ。高校生で、遠距離恋愛が続くとは思っていなかった私は転校の話と同時に、別れを仄めかした。が、その時、彼は予想外の言葉をくれた。

「何言ってるんですか?ちょっと離れるくらいで、貴方のことを嫌いになるわけじゃないんですから。離しませんよ、絶対」

先輩が別れたいんなら仕方ないですが。と真っ直ぐに伝えてくれた。



「うんうん、かっこよかったなあ、その時の京治くん」
「そんなこと言いましたっけ」
「言いました言いました」
「にやけないでください」

目の前にあるフライドポテトを口に入れながら京治くんは少しふくれたように呟いた。思い出に思い耽りながら私はメロンソーダをストローで飲み込んだ。休日のお昼、人がたくさんいるファーストフード店では明るい店内にポップな音楽が流れている。

「ごめんね、こんなお店で」
「謝ることじゃないでしょう」
「スポーツマンの健康に良くないんじゃない?」
「これくらい大丈夫ですよ」
「ならいいけど」

私が転校してから会う時間は格段に減ってしまった。彼は部活で忙しいし、なにより会おうとすると移動時間や交通費が結構かかってしまう。私が彼に会いに行く時もあれば彼が会いに来てくれる時もある。今回は私が梟谷の近くまでやって来たのである。交通費でお金が削られてしまうので二人きりで出かけてもあまり、お金がかからないところにしかいけないのが本当に、申し訳ないと思っている。一つ年上なんだから私がお金を払うべきなのにそうさせない彼はなんて大人なんだろうと幾度となく感じている。

「帰りは、何時ですか」
「えっと、19:00の新幹線に乗る予定」
「…あと2時間しかない」
「…しか、じゃなくて、も、だよ」
「そうですね」

彼は作り笑いが下手だ。私が彼に勝るのは作り笑いくらいだろうか。…勝ちたくもないところだけれど。それでもこれは、彼と付き合ってから気づいたことで、一緒にいた時間の長さを感じさせられて、自然と口元が緩んだ。



暗くなり始めた道を二人で駅まで歩く。もうすぐ新幹線の発車時刻の19:00になってしまう。楽しい時間はあっという間に終わりを告げるのだ。少し淋しくなって、隣を歩く彼の手を軽く握ると、ぎゅっと強く握り返してくれた。暖かい体温に安心する。

「…次は、俺が行きます」
「ううん、私が「俺が、行きます」…ありがとう」

そしてもう一つ気づいたこと。彼は少し頑固なところがある。私が彼に会いに行くことを頑なに拒否していたが、交互に会いに行くということで譲歩してくれた。彼は私にあまりお金を使わせたくないみたいだが、それは私も同じで、年下にお金を使わせたくない、と思っている。しかしそれを言うと彼はすごく怒るから言わないようにしている。(一度怒られてものすごく怖かった)駅が、近づいている。

「いつ、空いてますか」
「月末ならバイトが休みだから大丈夫だよ」
「じゃあ、会いに行きます」
「うん、待ってる」

駅の改札口まであと数メートルというところで、お互いに足の動きが止まった。繋がれていた手が名残惜しくも離れていく。鞄から新幹線のチケットをだして、彼を見上げた。何か言いたげに瞳を揺らす彼に切なさが押し寄せる。

「そんな顔しないの」

眉を下げてへらりと笑って、背伸びをしながら彼のふわふわの頭を撫でた。頭をなでられるのが好きだと言っていた彼はきっと喜んでくれる、そう思っての行動だ。頭を撫でていた手が彼の手に捕まえられた。そして、ぐいっと引き寄せられて私の体は彼の体に飛び込んだ。力強くぎゅうぎゅうと抱きしめられて少し苦しい。すぐそばにある彼の体温に目の奥が熱くなる。

しばらく無言で抱きしめられて、離れたくない気持ちがこれ以上増えないように、彼の胸板を軽く押し返した。ゆっくり離れた彼に笑いかけて、「また会えるよ。じゃあね」と手を振った。「すぐに会いに行きます」と、また下手な笑顔で手を振りかえしてくれた。



新幹線の中で、今日のことを思い出すと、またすぐに京治くんに会いたくなってしまった。笑った顔や、照れた顔を思い出すと、自然と口元が弧を描く。彼が愛おしいという気持ちがこんなにも私を幸せにしてくれるのだ。



Song by...
恋に落ちて / 藤田麻衣子


▽Dear あずさ様
この度はリクエストありがとうございました。切ない恋の歌で書かせていただけて嬉しくおもいます。応援のお言葉、感謝です。これからも赤葦くんは増加する予定なので、またお暇な時にでもいらしてくださいませ。何かありましたらいつでもご連絡ください。



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