康次郎の部活が午前で終わった日は、よく二人で会うことが多い。一年生の頃から付き合っている私達の習慣のようなものだろうか。会っても特にこれといったことをするわけでもない日が多いのだけれど、それでも一緒にいれることが嬉しい。二人で交わす言葉の一つ一つが大切だと感じる。



「なまえ、」

右隣を歩く彼と私の影が夕映えに映されている。頭一個分違う身長差までしっかり反映されていて憎いような愛しいような。そんなことを考えていると、不意に康次郎に声をかけられた。

「どうしたの?」
「…いや、なんでも無い」

彼は口下手だ。何かを告げようとして、やめてしまうことが常々ある。思っていることを話すことが得意ではないらしい。彼がいつか言いたいことを言えるまで、彼を信じて待つことに決めている私は、特に深く追求しないことにした。

言葉や表情には出ないけれど、きっと彼は私を愛してくれている。それは微かだけれど、その変化に気づくようになってきた。繋いだ手の力が強くなったりだとか、私の歩幅に合わせて歩いてくれたりだとか、そんなことでさえも愛おしいから。

「寒いな」
「もうすぐ冬だからね」
「冬か…」

康次郎は冬が苦手だ。というより寒さに弱い。私達が付き合ってから冬を迎えるのは二度目である。今年はこの寒がりさんのために何をしてあげよう。そんなことを考えるのもわくわくしてくる。

どんなにゆっくり歩いていても、いつかは家に着いてしまう。繋がれていた手が名残惜しくも離れ離れ。やっぱり、淋しい。明日も会える、そのはずなのに離れてしまうことが淋しい。

あ、きっと彼も同じ気持ち。
「おやすみ、なまえ」
「うん、おやすみなさい」
「じゃあ、明日な」

前なら気づけなかったくらいに微かだけれど、淋しそうに瞳を揺らす彼。そんな風にされると余計に離れたくなくなってしまう。もう少し、いや、できればずっと一緒に居たい。だけどそんなことを言うと子供みたいに思われちゃったらちょっぴり恥ずかしいから、「また、あした」と小さな約束をして、彼に手を振った。




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▽Dear お初様
この度は素敵な一曲でのリクエストありがとうございました。心がほっこりとなる曲で楽しんで執筆させていただきました。このサイトに足を運んでいただけているようで誠に嬉しく思います。これからも糸遊をよろしくお願いいたします。ありがとうございました。



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