7/7、所謂七夕の日。近所では夜店をはじめとする七夕祭りが開催されている。ざわざわとした人の雑踏を聞きながら、携帯の画面を見つめてある人を待っていた。

「あ、赤葦くん!」

声が聞こえ、携帯から顔を上げると浴衣姿のなまえが手を振って駆け寄って来た。それに手を上げて返すと、「遅れてごめんね」と眉を下げて笑う。

「浴衣、似合ってる」

白地に淡い紫の花柄の浴衣がふんわりとしたなまえによく合っている。そう言うと、彼はほんのりと頬を赤く染めて笑った。

「あ、ありがとう!赤葦くんも、似合ってる!」

浴衣を着た赤葦くんを見たい、という彼女のリクエストに答えて久しぶりに浴衣を着た。「かっこいいよ」と言うなまえ。それだけで着て来て良かったなんて思うことができる、彼女は不思議だ。

そっと彼女の左手を握る。あたたかい温度が伝わる。きっと彼女にも伝わってるんだろう。口元を綻ばす彼女を見ればわかる。



「ねえ、願い事書こうよ」

くい、と袖口を引っ張られてなまえを見ると彼女が指差していたのは、誰でも自由に書いていい様にと置いてある短冊と大きな笹。笹にはもうたくさんの色とりどりの短冊が飾られている。

「そうだな」

束になっている短冊から二枚取り出し、一枚をなまえに渡す。何て書こうか、彼女はすでに書くことを決めているみたいで筆が進んでいる。白紙の短冊を見つめて、思う。

願い事、いま俺がいちばん願うことは、なんだろう。昔からこういう願い事とか将来の夢とかを書くのが苦手だ。小さい頃から周りの大人を気にしていたところがあるせいか、思っともいないような子供らしくない願い事ばかりだった気がする。きっとそれは俺が臆病だっただけで、飾られるためだけのその願いが叶うことなど無いんだろう。

「よし、書けた」

隣から聞こえてきた弾けるような声に思考の渦から引き出された。「何て書いたんだ?」と尋ねると「普通だけどね」と短冊を掲げた。

赤葦くんと来年も来れますように

と整った字で書かれている。不意に口角がゆるゆると上がってしまうのは不可抗力だろう。彼女の小さな、でも大きな願いにつられて笑顔になる。彼女にそんな風に思ってもらえているのが素直に嬉しい。

彼女は不思議だ。変に悩んでいたのも馬鹿らしいような気になる。願い事なんて、いま俺が思っていることで、良いんだから。

「じゃあ、俺はこう書いておこう」

これから先もなまえと一緒にいたい

ひらり、と短冊をなまえに見せると、うれしそうに笑ってくれた。つられて笑った。




Song by...
StarRingChild / Aimer


▽Dear 沖都様
はじめまして、この度はリクエストありがとうございました。素敵な一曲で楽しく執筆させていただきました。七夕の日に公開しましたが遅れてしまい申し訳ありません!お褒めのお言葉、本当に嬉しく思います。これからもモソモソ頑張らせていただきます。



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