「今の人と結婚しようと思ってるんだ」 そう言って、ほんのり頬を染めて照れ臭そうに髪の毛を耳にかけるなまえさんは、幸せを感じさせる表情をしていた。それに反して俺の心は砕けそうなほどのショックを受けた。「そう、なんですか」としか言えなかった。 それからの日々はそのショックをずるずると引きずって周りからも心配されるほどには凹んでしまっていたらしい。でもやっぱり彼女のことを考えては、手に入れたいと思ってしまうから困ったもので。 俺は負けず嫌いで諦めが悪いって、知ってますか。
▲ 二年前に見かけた時から、俺は彼女に惹かれてた。けれど、すでに彼女には愛しい人がいた。それでも好きで、アプローチをしかけて、でも、彼女にはただの弟分くらいにしか思ってもらえなくて、「好きです」と告げた時だって「私も大好きだよ、本当の弟みたいで可愛いもの」なんて。玉砕もいいところだって思ったけど、案外俺はしつこい性格みたいだ。今だって彼女を全力で奪うことを考えている。 部活が休みの日に「ご飯でも食べに行きませんか?」と誘ったちょっとおしゃれな洋食屋さん。警戒心もなく二つ返事で了承してくれた彼女は、いま目の前でメニューを嬉々とした瞳で見つめている。 「ねえ、赤葦くんは何食べる?」 「あの、なまえさん」 「ん?なに?」 「いい加減赤葦くんって呼ぶのやめませんか」 「へ、馴れ馴れしかった…?赤葦さん?」 「いえそうじゃなくて、京治、とか」 「あ、そっちか、京治くん?」 「そっちの方が、いいです」 「京治くんか、慣れないな〜」なんて笑っているなまえさんを直視できなくて目をそらした。ただ名前で呼ばれただけなのに、結構うれしい、いま絶対ニヤけてるな。口元を頬杖をつくフリをして隠した。 「わたしオムライスにしようかな」 「俺、ハンバーグにします」 「ハンバーグも美味しそうだなあ」 「俺のちょっとあげますよ」 「え?本当?ありがとう!」 「うれしい」となまえさんが呟いた刹那、彼女のスマホが鳴り響いた。ちらりと液晶画面を覗くと、やはり例のなまえさんの恋人からで。「あ、」と伸ばしたなまえさんの手を掴んだ。驚いた瞳の彼女を見つめて、握っていた手に指を絡めて呟いた。 「好きです、なまえさん」 だから、いいかげん、僕だけのものになってください。
Song by... 分配法則/超飛行少年 ▽Dear はなちる様 この度は素敵なリクエストをありがとうございました!横恋慕や略奪愛がだいすきなのでこの曲にとてもハマってしまいました。がんばる男の子素敵です。応援のお言葉も本当に嬉しく思います。何かありましたら、いつでもお気軽に申しつけてくださいませ。
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