これで、いいのかな。人がまばらな放課後の教室で窓を開けて人が校門に吸い込まれて行く様子を眺めていた。何がこんなに腑に落ちないのか。多分、この位置から動くのが怖いんだ。みんなと離れるのも、少し怖い。 「いいと思うよ」 「え、」 突然隣から聞こえた声に驚いて肩が跳ねた。隣を見ると、ひらひらと手を振るなまえちゃん。その笑顔は相変わらずだ。三年間変わらない。もう数日で卒業式という今、感傷に浸るか無理に明るく振舞ってるか、そんな人達の中で、なまえちゃんは変わらない。というか、俺の考えてたこと分かったの? 「その髪型」 「え、髪?」 「寝癖、気づいてなかった?」 す、となまえちゃんの手が伸びてきて俺の後頭部らへんに触れた。近くなった距離に息が止まりそうになった。つられて俺も伸ばすと、ぴょんと不自然にはねた髪の束に触れた。うわ、恥ずかしい。 「なんだ、そっちか」 「あっちはなんなの?」 「ん?いや、気にしないで」 「そう」 窓枠に腕をおいて頬杖をつくなまえちゃん。少し肌寒い風が髪の毛を靡かせる。 「大学行くんだっけ、徹くん」 表情を変えずに淡々と呟いたなまえちゃん。 「うん、なまえちゃんは?」 「働こうと思ってます、県外で」 「そっか、会えなくなるね」 「いやでも週一で会いにきてくれるでしょう?」 ちらりと下から覗き込むようにして呟いたなまえちゃんに、ふっと口から笑みが零れた。「そうだね、会いに行くよ」と言うと、うん、と嬉しそうに笑った。 「で、何をお悩みなう?」 「んー?そうだな、強いていえばなまえちゃんと会えなくなることかな」 「あらきぐうねえ」 「棒読みはやめてよ」 冗談冗談、と笑うなまえちゃんにつられて俺も笑ってしまう。「くしゅん!」と教室に残っていた女の子くしゃみが聞こえて、「閉めようか」と窓を閉めるとひんやりとした空気が消えた。
△ 卒業式の日、たくさんの女の子に写真を頼まれたせいで流れそうだった涙は引っ込んだ。あのときの笑顔が引きつってないか少し心配。 と、殆どの人が泣いている中で、やっぱり変わらない笑顔の人がいた。「徹くん」俺に気づいたなまえちゃんが周りにいた女の子たちに何かを伝えて、こちらに走ってきた。俺の前にきて、息を整えたなまえちゃんが「ねえ、わたしとも写真とってよ」と言った。「いいよ」と言って携帯を取り出した。 かしゃり、とシャッター音が響く。「ありがとう、送ってね」と言ったなまえちゃんに「任せて」と、スマホの中の二人をみて呟いた。 「とうとう卒業しちゃったね」 「そうだねぇ」 へらへらと笑っているなまえちゃんに「また会えたらいいね」と笑いかけると、少し驚いた顔をして「会えるよ、きっと」と微笑んだ。 「週一でね」と笑うと、「当たり前!」となまえちゃんも笑った。 「なまえー!集合写真とるよー!」と声が聞こえて、振り向くとなまえちゃんの友達が手を振って待っていた。「いまいくー!」と叫んだなまえちゃんは、ふぅ、と息を吐くと「じゃーね、徹!」と言って笑った。驚いた俺は声が出なかった。最後の最後まで俺の心をぐちゃぐちゃにするなまえちゃんに敵う日は来るのかな。パタパタと走っていくなまえちゃんの背中に呟いた。 「さようなら、なまえちゃん」
Song by... YELL/いきものがかり ▽Dear 琴音様 この度は企画への参加ありがとうございます。以前からお越しいただいていたみたいで嬉しく思います。初及川さんで至らない点が多々あるかもしれません…!YELLを聴いていると卒業式のイメージが強くて勝手に卒業式にしちゃいました!何かありましたらいつでもお気軽にお申し付けくださいませ。この度はリクエストありがとうございました!
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