レンタルCDショップでバイトしてる夢主です。


「お願い、一度合うだけでいいの」

母の懇願する声が電話越しに頭の中に響く。「まだ、20なのにお見合いだなんて早いって分かってるんだけど、相手の親御さんがお父さんの仕事のお偉いさんで…」なんてつらつらと語られる言い訳も聞きたくない。今だ続こうとする母の言葉を遮って「わかったよ、合うだけでしょう?」と言うと、「ありがとう!日にちと場所は…」と声高に母の声が続いた。

メモを取って電話を切ると、自然と溜息がこぼれた。どんな人が来るのだろう、結婚なんて会ってすぐの人とできるわけないでしょうに。一度会うだけだなんて言っても楚々のないようにやり過ごさなければいけないし、お偉いさんの息子なら、もし、もしも私と結婚したいなんて言い出したら(きっと、ないだろうけど!)断りずらいじゃないか。



「元気ないですね」

「え?」不意に言われた一言に肩が跳ねた。「それ、逆さまですよ」棚に並べたCDを指さされ、視線を動かすと、しっかり並べたはずのCDが上下逆さまに並べられていた。

「あ、本当だ。ありがとうございます」「いえ」

バイト仲間の彼は同い年でバイト歴も半月になるのだが、今だにお互い敬語を使っている。彼の雰囲気がそうさせるのだろうか。赤葦京治、彼の名だ。

「悩みごとですか」

CDをアーティスト順に並べながら、京治くんが呟いた。そんなに私が分かりやすいのか、彼が鋭いだけなのか。実はお見合いさせられるの、なんて言ったら彼はなんていうだろう。きっと「へえ、そうなんですか」で終わるのだろうな。そう思っていても優ったのは好奇心で、冗談めかして言ったのだ。

「実は、お見合いさせられるんです」

ピタリ、彼の手元が止まった。釣られて、私の手元も止まった。「…俺もです」ぽつりと彼が呟いた。「え?」「なまえさんもだとは、思いませんでした」「え、え?」再び彼の手が動き出した。私の手は止まったままだ。「さっきからなまえさん、え、しか言ってませんよ」

ふ、と笑った京治くんに私は今だに驚いて声が出ない。いや出てるんだけど。

「今って流行りなんですか?若年お見合い的な?」
「意味が分かりません」
「あ、ごめんなさい」

ダメだ、まともな思考じゃないのかもしれない。けれど何だかお見合いって思ったほど重くないのかもしれない、同い年でこんなに近くにもお見合いする人がいるんだもの。母は相手についてどんな人かは詳しく言っていなかったが同い年だと言っていたし、軽く考えた方がいいのかもしれない。うん、きっとそうだ。



「なんでここにいるんですか?」
「こっちの台詞です!」

目の前に座っている赤葦くんはいつもの鈍い表情筋を少し動かして驚いた様子だ。かくいう私も驚きで椅子から立ち上がってしまった。

だってまさか、お見合い相手に赤葦京治くんが来るとは夢にも思わなかったのだから。

「…なまえさんだったんですね」

す、と目線を逸らして苦い顔をする京治くんに、昨日までの緊張が無駄に感じてしまう。なんだ、京治くんなら結婚なんか考えなくても、時間が経ったらすぐに解散すればいいだけの話じゃないか。ほっ、と胸をなでおろした刹那だった。直ぐには理解できない言葉を耳にしたのだ。

「でも、貴女と結婚したいって思ってたんで時間が省けて良かったです」



あなたは同じバイト先の知り合いの設定でお見合いで出逢うところから始まるxxの、漫画または小説を書きます
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