心臓にぐさりと大きな鋏で刺されたみたいだった。彼女はきっと僕の本当の気持ちに気づいていない。

「そうだよ」「ほんとに?」「当たり前デショ?」「飛雄のことが嫌いだから?」「そう」「飛雄から私を奪ったら勝てるって?」「…別に、勝ち負けっていうかあいつからアンタのこと奪ったらどんな顔するのかなって思っただけ。じゃなきゃ僕が君みたいな女に一々構ってらんないよ」

本当に僕の口と表情は上手くできてる。心にもないこともスラスラと滑り落ちてくれるんだから、楽で仕方ないよ。本当に。

「ていうかそれが本性?」
「そうだよ。優しい優しいツキシマクンじゃなくてごめんね?」

にやり、と意地の悪い顔で微笑してみたり。それでもなまえチャンは嬉しそうに笑うばかりで自然と僕の眉間には皺がよる。今までの全部自分に近づくための演技だったって知ったら普通怒ったり、するもんじゃないのか。


「ねぇなんでそんなに嬉しそうなわけ?ムカつくんだけど」
「え?へへ、だってちょっと嬉しい」
「なにが?」
「やっと胡散臭い月島くんじゃなくなったから」
「は?」
「今までの月島くん、なんか苦手だったんだよ、よかった」

スッキリスッキリ、と日誌をパタンと閉じたなまえチャンに盛大なため息をついた。

「ほんとムカつく」

椅子から立ち上がって彼女の前を通り過ぎる。ヘッドフォンをつけてお気に入りの曲を流して暗くなりつつある廊下を歩く。耳から入ってくる音が心地いい。

彼女はもう僕の告白なんてただの冗談だと思ってるみたいだ。いや、でもその方がちょっと有難いかな。つい口から出ちゃった言葉だった。彼女のことを好きか嫌いかなんてもうすでに決まってるし、自覚してしまったからもう彼女に近づかない方がいい。うん、離れよう。もう話しかけないし見向きもしない、助けもしない。その方が楽デショ。影山を怒らせようとしただけなのに、なんで僕も好きになってるんだか。王様の彼女なんて。

「ねえ!ねえってば!」

突然ヘッドフォンが耳から外れた。後ろを振り向くとヘッドフォンを持ったなまえチャン。

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