もっと簡単に奪えると思ってた。

顔もスタイルも特に悪いとは言われないし、悪いところといえば性格が悪いとよくいわれるけどなまえチャンに対しての僕は別人のように優しく接している。なのに、ちっとも揺らがない。

彼女も部活がある時は王様と二人で帰っている。となると王様と同じ時間に終わる僕も彼女を見かけるわけで。校内でも手を繋いだり、王様もいつもの険しい顔が緩んだりしていて、いかにも仲良しカップルな雰囲気に見ていて吐き気がする。

なまえチャンとは初めのころよりは仲良くなれていると思う。向こうから話しかけてくれることも多くなった。でも放課後暇な時を誘ってみても毎回断られる。案外王様一筋みたいだ。

いつも通り部活が終わって帰ろう、とした時いつものヘッドフォンを教室に置いてきたことに気づいた。めんどくさい、けど学校に置いていくのも嫌だし今日は何となく音楽を聴いていたい気分だった。

教室に戻ってロッカーからヘッドフォンを取り出して、廊下に出る。と、パタパタと廊下を誰かが走ってくる。誰だ、と思って視線をあげた。「あ、なまえチャン」ジャージ姿ということは彼女も部活だったのだろう。今日も影山と帰るの?と聞こうとしてやめた。

「あ、月島くん。今帰り?」
「うん、君は?」
「日直だったの今思い出しちゃって」

教室に入る彼女の後ろについて入ると、消されていない黒板が目に入る。これは世界史かな。びっちりと、緑色に白い文字が並んでいる。

誰のかわからない机に僕の鞄を置いて、日誌と黒板だけしてかないと怒られちゃうの、とせっせと背伸びをしながら黒板を消している彼女の黒板消しを奪った。「僕がやるから、日誌書きなよ」「いいの?」「気にしないで」「ありがとう!」パチパチとチョークの粉のついた手をはたいて窓側の椅子に腰掛けるなまえチャン。こういう時身長が高くてよかったと思える。上の方も難なく消せるし。

一通り消し終わって、黒板消しを黒板クリーナーにかけて終了。なまえチャンの前の席に反対向きに座って、彼女と向き合う。彼女のシャーペンは整った字をスラスラと綴っている。黙ってみていると、不意に彼女が「あ、」とつぶやいて顔を上げた。ぱちり、と合った視線をそのままに次の言葉を待った。

「そういやね、今日バレー部ちょっと覗いてたんだ」
「そうなの?影山はどうだった?」
「かっこよかった!あ、でもね」

「月島くんも、かっこよかったよ」と、くすりと軽く微笑んだなまえチャンは綺麗な髪を耳にかけて再び日誌に視線を戻した。きらきらしてる。初夏の窓から入るオレンジの光が黒髪に反射して彼女をより一層幻想的に映し出したからだろうか。知らぬ間に伸ばしていた僕の手のひらは、彼女がそこにいることを確かめたかったのかもしれない。はっきり言って、そんなこと言うのは反則デショ。

「んー?」触れた髪は思っていた通りにサラサラしていて思っていた以上に柔らかった。僕の手のひらからするりと抜けてしまう。だから、「じゃあさ、」口が自然と動いてしまったんだと思う。「影山と別れて僕と付き合ってよ」

僕はこの感情を既に知っている。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -