「おはよう、なまえチャン」
「月島くん、おはよう」

最近わたしは月島くんと言う長身な男の子に話しかけられることが多くなった。数日前のお昼休みの時間に美化委員の仕事でお花の手入れをしている時、山口くんに突然名前を呼ばれた。振り返って見ると二階の廊下からこちらを見下ろす山口くん、のお隣には綺麗な髪の眼鏡くんがいたのだ。

そして今日のお昼休み。美化委員のわたしはお昼にお花への水やりが課せられている。如雨露にたっぷりの水を入れて綺麗な花壇のお花達へ水をやっていた。すると、後ろから 「今日も委員会の仕事?」と声をかけられた。その人こそ月島蛍、最近話すことが多くなった男の子だった。

「うん、そうだよ」
「山口にやらせればいいのに。いつもなまえチャンじゃない?」
「山口くんには放課後のお仕事頼んでるから、お昼はわたしの仕事なの」
「なるほどね。花となまえチャン似合うよ」

月島くんに、にこりと微笑まれる。なんだか、むず痒い。こんな爽やかなイケメンくんにこうも微笑まれると恥ずかしくなってしまう。目をそらして咲き始めたお花達に水をやりながら「そんなことないよ」と呟いた。

「そんなこと、あると思うけど」

不意に耳元で囁かれて肩がはねた。いつの間にこんなに距離を縮められたんだろう。ていうか、おかしくないか。こんなイケメンがこんな女とお昼休みにこんな至近距離で…うん、誰かに見られるのも怖い。幸い誰も廊下にも中庭にもいないから見られてはいないけどこれはおかしい。それに、わたしには一応彼氏なる飛雄がいるのだから。

近距離の月島くんと距離をとろう、と花壇から数歩下がろうとした。が、右足と左足がもつれてバランスが崩れてしまった。「あ」と思った時には視界がぐらついて、やばい、手から離れた如雨露から出る水がきらきら輝いた。「あぶなっ」ぐい、っと勢い良く腕を引っ張られて、ぼすん、と温かいものに包まれた。

はぁ、と頭上から降ってくるため息。足元で跳ねる、如雨露と水。足にかかった水に意識がハッとする。

転倒を救ってくれたのは他でもない月島くんである。「あ、ご、ごめんなさい!ありがとう!濡れなかった?!大丈夫!?」30cm上を見上げると「大丈夫、なまえチャンは?平気?」と相変わらずな笑顔がある。頭に置かれた手も大きくて温かい。

「うん、ごめんね、ありがとう」
「いいって、謝んなくてさ」

ぽんぽん、と頭を撫でられて、今の距離感が相当近いことに気がつく。す、と距離をとると、撫で損ねた手が宙を掻いた。一瞬、月島くんの眉が動いた、気がする。

「あ、予鈴」

昼休み終了五分前のチャイムが鳴り響いている。「月島くん、ありがとうございました!」頭を下げてその場から逃げ出した。

変な胸騒ぎがする。

飛雄に会いたい。

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