天才、と呼ばれる影山に嫉妬してたわけじゃない。ただの部活でしかないバレーボールに全てをかけるつもりもない。めんどうだ。ただ、なんだろうか、いらいらする。

ひとつ、あいつに勝てる要素が欲しかったのかもしれない。

「影山に彼女できたんだって」
「へぇ〜」
「それが中々可愛くてさ」
「影山も悪くねぇもんな。ただ怖いだけで」
「中学の時より丸くなった、ってクラスの女子がーー」

耳に入ってきた男子の会話に、要らぬ想いがジワジワと腹ん中を侵食し始めたんだ。


「ねえ、山口」
「ん?どうしたツッキー」
「王様の彼女ってしってる?」
「ああ、知ってるよ」
「え、知ってるの」
「あ、実は一緒のクラスで同んなじ委員会なんだ」
「なにそれ、何で言わないの」
「もうツッキー知ってるのかと思ってて」
「バカ」
「はは、ごめんツッキー」
「で、なんて名前?」
「なまえちゃんって言って…この時間なら美化委員の仕事で中庭に…、あっ、ほら!あのこ」

二階の窓から中庭を、身を乗り出すようにして覗いた山口が、あのこ、と指差した方を山口の隣から見下ろすと黒髪の後ろ姿の女の子がいた。ここからみても小さい、と思う。「なまえちゃーん」と山口が大声を出すと、女の子がくるりと後ろを振り返った。風に膨らむスカートに、髪の毛も揺れた。女の子は、単刀直入に言うと影山の隣に立つのが想像できない位女の子らしい女の子だった。可愛いと言われるのも納得できる。

「あ、山口くーん」

ひらひらと手を小さく振るなまえチャン、は俺と目が合うと小首を傾げた。別に可愛いなんて思ってないけど。クラスの女子にもしたことがないほどの笑顔で「初めまして、僕は月島蛍。よろしく」と手を振った。山口は目を見開いて驚いていたけど無視。

「初めまして!よろしく」となまえチャンも笑って手を振りかえしてくれた。

へぇ、あれが王様の彼女か。もっと性格悪そうな女かと思ってた。いや、もしかしたらああ見えて性格ひん曲がってるとか?

「つ、ツッキーどうしたの」
「え?別に?おかしい?」
「い、いや、なんか珍しい、なって」
「そうかな?」

特に変わらないよ、と返すと、そうかな?と訝しげに見てきたが気にしない。僕が今、中庭で花の手入れをせっせとしている彼女をどう使おうか、なんて考えているとは誰も知らないデショ。

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