勢いで、月島を殴ってしまった。なまえのことを散々に言われて、勝手に身体が動いてしまっていた。 月島が出て行き一人になって、しばらく冷たい風に当たっていると、段々落ち着いてきた。さすがに殴ったのは悪かったか。謝るべきだよな、と思いながら、屋上を後にして階段を下っていく。 もうそろそろなまえの委員会も終わっている頃だろう。彼女の部活もないから今日は一緒に帰る予定だ。朝に話しかけた時は何か悩んでいたみたいだったし、あいつの好きなケーキでも奢ってやろうか、きっと口周りにいっぱいクリームをつけながら美味しそうに食べるんだろう。 階段の踊り場から、廊下に出ると、人影が見えて足を止めた。 見たところは二人、そして一人の外観は髪色と身長で月島だと直感した。 止まっていた月島がもう一人のことを急に抱きしめた。驚いて目を見開く。あいにく、月島の高い身長のせいで相手は見えないけれど、体格差からいって女だろう。じっと黙って見つめていると、何かを呟いたらしい月島が急にパッと相手から手を離してそそくさと足早に去って行った。 そして、いままで月島が邪魔をして見えなかった人物が、視界に入った。 「なまえ…」 ふつうならすぐに駆け寄って、大丈夫か、と聞いていただろう。でも、俺は動けなかった。全身が機能を停止したみたいに、固まってしまった。 だって、そこにいたなまえは、顔を真っ赤にして、泣き出しそうな表情をしていたから。 否、泣きそうなのはきっと、彼女だけじゃない。 -- どんどん話が暗くなってしまって申し訳ありません… |