「バカなの?」「そんなのもわからないの?」「ほんとに鈍臭いね」「さっさとして」 わたしの彼氏の月島蛍くんはわたしにとても辛辣だと思う。上記の言葉は全て蛍くんに言われた言葉だ。彼がツンデレだということは重々承知しているが、付き合ってからあまりその、好きだとか愛してるとか可愛い、とか言ってくれないし。周りの友達はみんなラブラブイチャイチャしてるし。羨ましいといいますか、はい、羨ましいのです。 「どう思うよ影山くん」 「どう思うって…知らねぇよ」 「もうちょっと真剣に考えてよ」 「いや知らねぇし。日本人にそんなもん求めんなって」 「ミキちゃんは毎日電話で愛してるって言い合ってるもん」 「はぁ…よそはよそ、あんたらはあんたらだろ」 「影山くん興味ないのね」 「あるわけねぇだろ月島の恋なんて」 「わたしの恋でもあるよ?」 「だから余計いやなんだろーが」 「え、そんなにわたしのこと嫌い?」 「…で…な…!」 「え?」 何か呟いて俯いてしまった影山くんを覗き込むと少しの間目を泳がせたかと思うと、意を決したように顔をあげてしっかりと目と目を合わせてきた。 「なんで自分の好きな女の恋愛相談なんて受けなきゃなんねぇんだよ!」 は、と間の抜けた声が喉から飛び出た。顔をほんのり赤くした影山くんはわたしとの距離を一歩縮めて睨みつけるように見つめてくる。 「え、どうしたの影山くん?わたしの恋愛相談だよ?誰のだと思ってたの?」 「あ?!なまえボゲェ!鈍すぎんだろ!」 「なにが!?」 「だから!お前が好きだっ…て…!」 「へ…、そ、そう…だったん、ですか?」 「…もう、この際だから全部言わせてくれ。卑怯だけど、俺は、お前が好きだ。俺なら、お前が毎日す、好きとか、あいしてるとか言ってほしいってんなら言うし、その、月島よりも、優しくできるって、いうか、だ、だから、」 「へ、ま、待って、影山く「へぇ、王様はなまえのこと好きだったんだね」け、蛍くん…」 声のした方を見ると、にっこり笑った蛍くんが教室の扉に凭れかかっていた。綺麗な笑顔に今は恐怖しか感じない。ガタッと席を立った影山くんは「うるせぇよ」と蛍くんを睨みつけた。影山くんの態度に微かに眉を寄せた蛍くんは「人の彼女に手を出したくせに上からだね」と呟いた。 「まだ出してねぇっての」 「まだ、って出すつもりなんだ」 「てめぇがこいつ悩ませてるからだろーが。ったく、今度は容赦無くかっさらうからな」 チッと舌打ちをした影山くんは、少し屈んで、わたしの耳元に「いつでも俺んとこ来いよ」と囁いた。そして、頭を一撫でして教室から出て行ってしまった。「影山くん!」椅子から立ち上がって呼びかけても既に教室からいなくなっていた。 影山くんが出て行った後の教室は静けさに包まれている。はぁ、と溜息を吐いた蛍くんに身体がビクッと跳ねる。どうしてこんなに気まずいの…! 立ったまま動けなくてじっとしていると、蛍くんがわたしにゆっくりと近づいてわたしの腕を引いた。自然と体が傾いて蛍くんの腕の中に飛び込んだ。背中に回った蛍くんの腕がぎゅっとわたしを包んだ。 「王様に、気移りした?」と呟かれる。「し、してないよ!」と言うと「当たり前」とふっと笑った、気がした。「いつから聞いてたの?」「どう思う影山くん辺りかな」「ぜ、全部聞いてたの!?」「僕がいない間に王様と何話してるのかと思って」「う、」 何も言えずにいると、蛍くんの手が頭を撫でてくれた。 「僕、なまえが嫌って言っても離すつもりないからね」 「蛍くん、わたしも、は、離さないよ!」 「…っとに、煽るの上手いよね」 「え?ちょ、と…っ」 「なに」なんて言った蛍くんに鎖骨にちゅう、と吸い付かれてしまった。そして冷たい指で耳に触れられて耳元で「ねぇ、僕のこと好き?」なんて囁かれる。くすぐったくて身を捩ると「言って」と耳を甘噛みされる。背筋がゾクゾクとする。 「す、好き…大好き…」 「……なまえかわいい、僕も大好き」 「え、な、なんて…!」 「愛してる」 「へ、い、いいいま…!」 「もう言わない」 「蛍く、」 「ちょっと黙ってて」 黙ってて、と唇を奪われて声にならない声だけが漏れる。さっき、さっき「かわいい、僕も好き」って言ったよね?どうしよう、うれしい。「ちょっと、なんで泣いてるの」「う、嬉し、」「ああもう馬鹿なの?」蛍くんが流れた涙を親指で拭ってくれる。「もうちょっと、優しくしてあげてもいいよ」赤い顔した蛍くんに目尻にキスされた。 ーー ただの嫉妬のおはなしになってしまいました。理性ぎりぎりってテーマなのに…!お粗末様でした。
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