「はじめてのお泊り」

そんな風に言うといかにもイヤらしいものを想像するだろうが、実際そんなこともないのだと身を持って知った。
普通彼氏の家に泊まりにきた、なんて緊張するはずだろう。何故なまえは普通に寛いで爆睡しているんだ。

課題を途中で放り出したかと思えば、俺の部屋の雑誌と漫画を漁り尽くし最終的にベッドを占領していびきをかいて寝出したのだから脱帽だ。

それでもなまえの腹チラの誘惑に耐えて布団を掛け直したあたり俺は最高の紳士だと思う。

いまはいい。ただ、問題は夜だ。

まるで図ったかのようだが今夜は両親共に留守だ。断じて狙ったわけじゃない。





夜ご飯は簡単にオムライスを作った。なまえの包丁さばきには少し不安だったが何とかまともに出来た。

「ねえ、こうちゃん」
「なんだ?」
「新婚さんみたいだね」
「…っそうか?」

不意に言われた言葉に顔が熱くなる。新婚さんみたいだね、なんてなまえの口から言われるとは思わなかった。

「あ、あれやればよかったね!」
「あれ?」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも…ってやつ」
「ぐふっ」
「ちょ、なに噎せてるの!?大丈夫?!」

本当に心臓に悪い。喉に詰まったオムライスが苦しい。げほげほと噎せていると「そんなにしてほしかったの?」と大笑いし出したなまえ。違う、と噎せつつ言うと「知ってるよ」なんてまた笑った。





ついに来てしまった。二人ともお風呂に入ってあとは寝るだけ、という状態である。なまえとは半年以上の付き合いだしそういう関係になってもおかしくない。というか今ぐらいじゃないのだろうか。原なんかと比べたら遅い方だと思う。あいつが早いだけなのか?

チラ、となまえを見ると、

ベッドですでに寝ていた。


今日一番のため息をついた気がする。彼女の前で緊張するだけ無駄なような気がする。一気に肩の荷が下りたように楽になったみたいだ。

ベッドに近づいてなまえの髪に触れると少し動いた。そのまま頭を撫でると、閉じていたまぶたがうっすらと開いた。

「起こしたか」
「ん、ごめん寝てた?」
「ああ」
「こうちゃん寝ないの?」
「寝る」
「一緒に?」
「だめか?」
「ううん、うれしい」

一緒に寝ようよ、なんて笑顔で言われてしまった。からだが熱い。真っ直ぐ見つめることができなくて目線をそらした。いますごく触りたい、というと変態くさいだろうか。

ベッドの端によったなまえの隣に横になる。幼児体温の彼女のおかげで中はすでに暖かい。

ふわっと香るなまえの香りに我慢ができなくなってきた。ベッドの上で彼女とふたり、なんて。なまえの細い腰を捕まえて自分の方に引き寄せた。「あったかいね」「そうだな」おでこに口付けると嬉しそうに笑った彼女に我慢なんて忘れてしまった。



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