ホラー映画なんて怖くないと思ってた。所詮フィクションだし、所詮CGや人間が演じているだけなのだから、と余裕綽々で見始めた少し前にはやったホラー映画。だが、 こんなに怖いと思ってなかった。 実はこういう類のものを見たのは初めてだったのだ。不可抗力だ。 「さっきから悲鳴煩いんだけど」 「いや!そ、そそそそんなこといってうわああ!!もう…!」 「なまえのが怖い」なんてぽそっとつぶやいた英に言い返す余裕もないくらい怖くて背もたれにしていたクッションを抱きかかえた。テレビ画面ではヒロインたちが勇敢にもおどろおどろしい部屋に進もうとしていた。 隣からチラチラと視線を感じたりと思っていたがそんなものは気にならないくらいビクビクとしていたのだ。 「なんでこんな近いの?」 「うるさいこわい」 いつ敵が出てくるかわからない状態で進んでいくシーンをみていると、やたら自分の身の回りが気になり始めてしまうんだから仕方ない。背中や隣に空間を作りたくなくなって、隣の英にぴったりと身体をくっつけて反対側にはクッションを積んだ。背中はベッドが守ってくれている。隣から感じる熱に一安心だ。 「塩キャラメル食べる?」と一粒のキャラメルをちらつかせた英。「食べる」と返事をすると包みを開けてくれる英になんだかいつもより優しい気がする、と口を開けて待っていた。 「んぐ?!」するといきなり英の顔が近づいてきて、びっくりした私は口を閉じ、る前に英の唇が合わさった。 口の中に甘い香りが広がって、英の熱で溶けて柔らかくなった塩キャラメルが舌に転がってきた。す、と離れた英に肩パンチを食らわすと「いたい」となんとも抑揚なく呟かれた。 「いきなりなにしてるの」 「なまえが誘ってくるからさ」 「誘ってないし?!」 「キャラメル食べるって」 「待ってそれはおかしい」 「うるさいな、さっきからべだべた引っ付いてきたり変な声出したり誘ってるようにしか見えないんだって」 「とんだ勘違いです!見ようって言ったの英だし!」 「なまえ平気だって言ったし、それにこれあんまり面白くないんだけど」 ぴっ、と停止ボタンを押した英。「あ、そんな途中で「なまえ」…?」真っ暗な画面に音がなくなってしまい静かだ。 ぐぐんっと距離を縮めてくる英に戸惑う。せっかく積み立てたクッションが崩れてしまった。 「ホラー映画より面白いことしようよ」 なんて耳元で囁かれたらさ。
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