「兵長、お疲れ様です」

「ああ。お前もな」

「いえ!そんな、ありがとうございます」

「なまえよ、今夜部屋に来ないか?」

「え、あ、はい!わかりました」

「お前は無防備というかバカだな」

「え?え?」

「来ないか、と聞かれたら、行くか行かないかの選択肢が与えられてんだよ。というかのこのこと男の部屋に入るな。」

「は、はい!…?」

「…はあ。とにかく用心するこったな。まあお前を誘惑するやつは余程の物好きか変態だが」

「ちょ、それ酷くないですか?!」

「ふっ、冗談だ。早く風呂に入って寝ろよ?おやすみ」

「うー…おやすみなさい兵長」


ポンポン、と頭を撫でられる。なんだか失礼なこと言われたけどうまく丸め込まれた気がする。でも、兵長は私のような下っ端にもコミュニケーションをとってくれる優しい方だと知っている。蹴られると痛いけど。


よし、お風呂入ろう。




お風呂から上がると随分消灯時間が近づいていた。湿っている髪の毛を後ろでお団子にして結ぶ。窓から入ってくる風が気持ちいい。少し涼んで行こうかな…


風に揺れる木々を眺めながらボーッとしていると人影が重なった。誰だ、と思うまえに私の首元をその人の髭が掠った。その刹那、誰かは分かってしまった。



「ミケさん?」

すんすん

「あの、」

少し首を捻るとすぐそばにミケさんの横顔があって不意に心臓が高鳴った。


すんすん


「あああの!ミケさん!」


バッとミケさんと距離をとる。当たっていた髭のせいでまだくすぐったさが残っている肩を摩りながらミケさんを見る。

「ん?」

「あの、いい加減その、すんすんしないでくださいっ」

「んー、いい匂いだから。なまえ」

「まあ、お風呂上がりですし…ええと、ありがとうございます?」

「うん。だから。」


おいで?といって手招きされる。少し警戒しながら近づくと腰に腕を回されてがっちりとホールドされてしまった。いやなにこれ。近い!!


「あ、あのミケさ…!」

「やっぱり、なまえの匂い落ち着く」

「あの、嬉しいですけど、くすぐったいし…は、恥ずかしいです…」

「ふっ」

「(鼻で笑うところか?!)」

「いじめたくなるっていう兵長の気持ちが分かるな」

「え?(兵長いじめたいなんて思ってたの?!)」

「んー、でも。嫌だな」


ミケさんが私の首元に近づいてすんすん、といつものように匂いを嗅いだ。…だけで終わらなかった。なんと、なめたのだ。


「ひゃう?!!!」

「ん…」

「ちょ、ちょ、舐め…っ!やめてください!」


さすが兵長に次ぐ戦闘能力の持ち主、胸板を叩いてもビクともしない。ぺろぺろとネコのように舐められてしまい恥ずかしさでおかしくなりそうだ。でもよかった、夜だから人もいない。そこだけが救いだ。


「あ、あの…も、ほんと、やめてください」

「ふっ、からかい過ぎたな。悪かったよ」

「へ、あ、はい。もう、やめてくださいね?!」

「…君が兵長とイチャイチャするのが悪いんだ」

「は?」

「なんでもない。早く寝た方がいい。あまり遅いと襲われてしまうよ」

「引き止めたのはあなたでしょう?!」

「ふっ」


また鼻で笑われた!!ミケさんは私の頭をポンポン、と数回触ったあと自室に戻って行ってしまった。


ああもう、なんだったんだ一体。


舐められたところが熱い、というか、身体が熱いのはお風呂から上がったばかりだからということにしておこう。




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