一通りの仕事を終えてエルヴィンへの報告をしに行くとやけにエルヴィンの機嫌が悪かった。態度に出るような奴じゃないのに、そんな時に脳裏を横切ったのはなまえの姿だ。

喧嘩でもしたんだろう。俺がエルヴィンに声を掛けるまで気づかない程悩むくらいの。

報告書を提出してエルヴィンの部屋を出る。嫌なことを考える前に風呂でも入ろうか、と廊下を歩いていると突き当たりの階段の下から物音がした。そして、すすり泣く声。大体の予想はつくのに。放っておけばいいのに。分かっていても身体は動くもので、階段下で泣いている女に声をかけた。



「うう…ぐす…っ」

「…なまえ」

「わああ!ミケ…ぐすっ…ごめ…すぐに…っ、」

「…なまえ、待て」

「わ、ちょ、ミケ…?」


笑顔を取り繕うとして目を擦るなまえにひどく苦しくなって顔が見えないように自分の胸になまえの頭を押し付けた。


「泣け…」

「うっ…ぐず…ん、ごめ…っね」



こんな状況に不謹慎なほどに喜びを感じて怒りを感じて悔しさを感じる。何故だ、俺なら泣かせない。なんて思ってみても、こいつが泣くのはエルヴィンのためだからと考えると心臓を鷲掴みにされたように痛くなる。だから、ただただ今は抱きしめるだけだ。


エルヴィンの女に惚れた俺はどうすることもできない。ただ、泣いている間は自分の腕に閉じ込めておけばいい。俺の胸で泣ばいい。


「…なまえ」

「…っ…ん?」

「……いや、何でもない。」


今の現状を利用して俺の女にならないか、なんて言ってしまいそうだった。そんなの、答えなんて分かり切ってるのに。


それでも、この腕の中で泣いているなまえの姿に少しの期待を感じてしまう。


あぁ、俺はずっと前からこの期待の中を泳いでいるだけなんだ。


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