「あー、任務完了した。」

リゾットに完了の知らせをして携帯の電源をきる。自分に纏わり付いた血の匂いにももう慣れてしまっている。今日のターゲットはスタンド使うまでも無かった。だが油断しすぎて左手を銃で打たれてしまった。クソッ!

金持ち野郎の始末や婦女の始末。もう嫌と言うほどしてきたが、罪悪感ももう感じない。

そんな自分に舌打ちしてしまう。

すぐにアジトに帰る気にもならなくて、とりあえず車で街を走り抜ける。しばらく走ってると街から抜けて海に近づいた。

知らないうちに海に向かっていた、何故かは知らない。とりあえず車を止めて、徒歩で人のいない海に浸かる。浸かるといっても、踝あたりまで。

静かだな、海は。

ボーッと地平線を眺めていると、女の声がした。「あの、」

「アアッ?!」
「ヒッ、いや、手!手が!」

声がする方をみると、海に浸かっている女だった。俺の目が確かなら、そいつには尾びれがあった。ていうか、あれだ、人魚だ。長い髪に白い肌、上半身は裸だった。ほとんど髪で見えないけど。

左手!左手!と何故か人魚が焦りながら近寄ってくる。見せろ、という意味だろうか。手のひらを差し出してくる。
俺はおとなしく左手を差し出した。

「治せるのか?」
「うん、まあね」

ふんわりと笑う人魚は綺麗だった。人魚を信じてたわけじゃないけど。ココに、居るんだから本当なんだろう。

人魚が両手で俺の左手を包み込む。すると淡い光で包まれて痛みがひいていくのがわかった。

「どうぞ、治りましたよ」
「みたいだな、グラッツェ」
「どういたしまして」

笑って海に帰ろうとする人魚の腕を知らず知らずに掴んでいた。

「あー、その、いつも、来るのか?」
「残念ながら、一度人間に見られたらもう二度と海面から上がれないの。ごめんなさい」
「おい!なんだよ、それ!じゃあ何で俺に話しかけたんだよ!」

怪我を治してもらっといてなんて言い草だ、と自分でも思う。それでも、あいつが話して来なければ俺はきっと気づかなかったんだ。そういうと人魚は少し苦笑いして「貴方、寂しそうだったから。それに怪我してる人ほっとけないでしょう?」なんでだ、なんでお前は…そんなに…。

愚かだ。

「悪かった。」
「私が勝手にしたことです。気にしないで」

そういって深い碧に潜って行く人魚を見届ける。碧に包まれて見えなくなった頃に俺は周りがだいぶ暗くなっていることに気がついた。夢か現実か、よくわからないままアジトに戻った。


「ギアッチョ、遅かったね」
「あー、…人魚に会ってた。」

すると目を丸くするメローネ。そしてすぐに馬鹿にしたように笑った。

「ギアッチョが…人魚って…アハハッ」「クソッ!てめ、笑いすぎだボケ!」「フフ、人魚となにしてたんだ?」

「怪我治してもらった。ほら、血ついてるだろ」
「あれ、本当だ。怪我してないのに手袋には血ついてる」
「な?本当なんだよ」
「でも、人魚って人を助けると泡になるんじゃあなかったっけ?」
「アァ?上に上がってこれねぇだけだろ。バカか」
「えー、そうだったっけな?確か泡になって消えてしまったような気がするんだけどな。ギアッチョが人魚ねぇー。ふふ、まあ、俺には関係ないね。早くお風呂入っておいでよ、潮臭い」
「チッ、言われなくても入ってくるっての」


風呂でシャワーを頭から被りながら、左手を眺めてみる。確かにあいつは俺の手に触れたんだ。本当に、泡になっちまったのか?俺に嘘吐きやがって。


覚悟しておけよ、怪我するたびにお前に会いにいってやる

だからまた、上がって来いよ。その深い碧の底から。

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