露伴先生に夏祭りに誘われるなんて夢にも思わなかった。

いつものように康一くんと露伴先生の家に行った時だった。先生はなんだかんだ行っても私たちのためにお菓子や紅茶を用意してくれていて、その日も例外ではなく、優しくもてなしてくれた。康一くんのおかげだ。

「そういえば、もうすぐ夏祭りですね」と康一くんが何気なく放った言葉。夏祭りなんてもう何年も行ってなかったなー、なんて思いながら「そうだねえ」と呟いた。

「なまえちゃんは行く予定あるの?」
「ん?ないけど。康一くんは?」
「僕は一応行く予定だけど、先生は?」
「僕も特に予定はない。」
「先生はいかなそうですよね。お祭り」
「そんなに僕と行きたいのか?」
「…は?」
「そうか。仕方ないな、君がどうしてもって言うなら?一緒に行ってやってもいいけど」

ああ、出ました。この感じ!もう慣れてしまっているが。大凡先生は夏祭りにいきたいんだろう。素直じゃないなあ。でも私なんかで良いのかな。康一くんをみると、苦笑いして頷いてくれた。

「…じゃあ、お願いします。先生」
「…ふん」

鼻で笑って紅茶を啜る先生。ほんのり笑っているように見えなくもない。



そして、夏祭り当日だ。

本当は浴衣とか着るものなんだろうけど、生憎高校に入って一度も夏祭りに行ったことがないので浴衣なんて持っていない。

少しくらい着飾るか、と思い少し髪を巻いてみた。いつもは何もしないのだけれど。そしていつもより短めのスカートも履いてみる。足をさらけ出すのは好きじゃないが、ニーハイで誤魔化した。

時計を見ると午後6:43と表示されている。7:00に待ち合わせているのでそろそろ家をでないと。ショルダーバッグを持って家を出た。

歩きながら露伴邸へ向かう。お祭りということもあって、人通りが少し多い。その中でも目立つ仲睦まじいカップル。やはり女の子は浴衣だ。あー、買っておけば良かったな。まあ、今更遅いのだけれど。

ーピンポーン

インターホンを鳴らすと中から先生が出てきた。良かった、先生も浴衣ではなかった。いつもの奇抜なファッションだ。こんばんは、なんて会話を交わした。


「普通浴衣なんじゃあないのか?」
「生憎持ってないんです。これでもお洒落したほうです。」
「まあ、浴衣着たからって見て呉れが変わるわけじゃないがな。」


これは私のことをフォローしてくれている?本当にわかりにくい。そう思いながらも少し嬉しかった。



何分か歩いていくと灯りがついて人が賑わっている場所についた。屋台がたくさんある。久しぶりに来たなー、口から零れた言葉は先生に届いていた。



「僕は、初めてだ。」


「そうなんですか?」


「…あぁ」


「まあ、一緒に行くような相手が居なさそうですもんね」


少し冗談交じりに言うと、ふっ、と笑って


「…君もだろう。」


と言われてしまった。まあ、そうなのだけれど。



「来たからには満喫しましょう」



先生に、早く、と催促をして人ごみの中に入る。



「人ごみは好きじゃないけど、お祭りの賑わいは良いですね。」


「そうだな。躓くなよ」


「大丈夫ですよー。」



あ、綿あめ。美味しそう。



「先生、あの綿あめ欲っーうぁ!」



欲しい、と言おうとして立ち止まると後ろの人達にぶつかってよろけてしまった。



「はぁ、こけそうになってるじゃあないか。」



ほら、と手を差し出される。

え?、と言うと私の左手を掴まれた。

初めて先生の手を握った。



差し出された手のひらは優しかった



「あ、ありがとうございます。」


「ふん。綿あめ、欲しいんだろう?」


「はいっ」




その後も、りんご飴、カステラ、金魚すくい、などをして夏祭りを存分に楽しんだ。


差し出された手のひらは優しかった



(君と祭りに来ると疲れる。)
(いいじゃないですかー、たまには)

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