無駄に長い 四時間目がおわってお昼休みの時。いつものように中庭の影でいつものメンバーがお昼を食べていると、原が思いついたように手を叩いた。 「なぁ!今週の日曜日体育館使えないらしいよー」 「あ?なんでだよ」 「バレー部が一日練習会場にして使うんだって。他校もくるらしい」 「へぇ、じゃあ暇になっちゃうね」 「あっ!じゃあさじゃあさ!みんなでどっかいこーよっ」 「どっかってどこだよ?」 「バッカ。やっぱザキてバカ」 「んだと馬鹿野郎!」 「こんな暑い毎日が続き、みんなも行きたいところがあるだろ?!」 「…どこ?」 「もうなまえちゃんてばほんとなまえちゃん!可愛いから許す!やだ花宮くん怖い」 「で、行きたいところって?」 「よしよし、そんなに聞きたいか古橋くん。プールだよ!プール」 「あーいいなあープール」 「だろ?!ザキ!ギャル探し!」 「水着ギャル!」 「ほんとお前らバカだな」 「じゃあ花宮は行かねーの?なまえちゃんは行くよなっ?」 「どうしようかな、でもみんなが行くなら楽しそうだから行きたいかも」 「な?!ほら!花宮、」 花宮、と言われ原の方を見るとニヤッと笑った原が右隣にいる花宮に耳打ちでポソッと呟く。 (なまえちゃんの水着姿見なくていいの?) 囁かれた言葉に反応してなまえの水着姿を想像した後に花宮は目線を一瞬なまえに移した。そして深い溜息を吐いた。 「…はぁ、俺もいく」 「お!やっぱり見たいもんねー」 「ちが…っ!変な虫がつかねーよーにだよバァカ!」 「はいはいっで、瀬戸と古橋は?」 「お前らが行くなら行く」 「瀬戸に同じく」 二人の言葉を聞いた原は、お箸を持った右手を空に向かって挙げて高らかと宣言した。 「よーっし!じゃあ日曜はプールな!」 *** そして日曜日が訪れた。 「じゃ、此処で待ってるから着替えてこいよ。此処にちゃんとくるんだぞ?ふらふらどっかいくんじゃ「もう!大丈夫だよ、まこちゃんっじゃ、着替えてくるね」 そういってなまえは五人に背を向けて更衣室に向かう。後ろでは花宮が「おい!まだ話はおわってねぇ!」と騒いでいるのを古橋や原が抑えているのが聞こえた。なまえは心配性だなぁ、とクスッと笑った。 *** 「お、あれなまえちゃんじゃない?!おっぱい意外とあるんだな」 「人に埋れていると余計小さく見えるな。」 「あいつのビキニとか初めてだ」 「パーカを前開けて着てんのが逆にやらし…いてぇ!」 「くそ!ザキ明日覚えとけよ!」 「なんで俺だけ?!!」 なまえのビキニ姿に騒いでいる五人に気づいたなまえはパァっと笑顔になった後、花宮を見つけると少し顔を赤くした。 まこちゃんの、水着姿だ…!と恥ずかしくなって下を向いて歩いているなまえに原が「なまえちゃーん!」と声を掛けると、なまえは顔をあげて手を小さく振りながら駆け出した。 「ごめんね、待った?」 「いや、そんなに」 「そっか、よかった!じゃあいこ?」 「おー!いこーぜ!」 *** なまえ視点 「うっひゃー!広い!!水着ギャル多し!!おいザキっナンパいっとこーぜ!」 「おおー!!!」 「おいてめーらもうちょっとおとなし…ってもういねーし」 「す、すごい速さで女の子達のところに…」 「花宮、俺パラソルのところで荷物の見張りしてるわ」 「お前はただ寝たいだけだろ」 「仕方ない、俺が荷物を見張ろう。」 「康次郎、悪りぃな。頼む」 「あぁ」 「なまえもたのしんでこいよー。ふぁあ」 「うん!」 あくびをしながら、ポンポン、と健ちゃんにあたまを数回撫でられた。健ちゃんと康ちゃんは日陰に設置したパラソルの所で見張り番をしてくれるらしい。本当は私がするつもりだったんだけどな… 「おい、」 ポーッと考え事をしていたらまこちゃんにいきなり話しかけられた。驚きのあまり少し声が上ずってしまった。 「は、はい?!」 「お前は泳がねーの?」 「…あ、いや…その…」 「…泳げねーの?」 「う…はい…」 「ふはっ何だそれ。ならなんで浮き輪持ってこなかったんだよバァカ」 「だ、だって…!わたしずっと荷物の見張り番するつもりだったんだもん」 「…仕方ねーな、ほら」 「え?」 ほら、と差し出されたのはまこちゃんの左手。 突然差し出された手に戸惑っているとまこちゃんはそっぽ向いて 「手、捕まってたら溺れねぇだろ…っ」 と言った。少し頬が赤くなってるのが見えた。まこちゃんが照れてるのを理解すると同時に私も少し気恥ずかしくなってしまった。 でも、まこちゃんと手を握ることなんてこれから先ないかもしれないし…いいよね…! 「あ、ありがとう!」 遠慮がちに右手をまこちゃんの左手に乗せると、ぎゅ、と握り返された。まこちゃんの体温が伝わってくる。 「離すなよ?」 声を発したまこちゃんを見ると、ニヤッと意地悪く笑っていた。まこちゃんの言葉と表情に心拍数が上がったのが分かった。 「う、うん…!」 「とりあえず入るか。暑い」 「…は、離さないでね?」 「お、おう」 溺れるのが怖い私は命綱のようなまこちゃんの手を強く握りながら「離さないでね」と言った。 まこちゃんは何故か「反則だろーが…」と右手であたまを抱えていた。何のことだろう。 プールサイドに腰をおろして足を揺らめく水面に浸けると水の冷たさを火照った身体に感じた。チャプン、と入ると思った以上に深くて155センチしかない私の胸上くらいまで水面が迫っていた。 「結構、深いんだね…!」 「そーか?まあチビだしな」 ふっと笑いながらチビと言われてしまった。む、としたのでピチャッと水を飛ばしてやった。 「うわ!おい、いきなりはやめろよ」 「チビなんて言うからですよっ」 「ふはっ」 「わ、笑うな!」 「にしても此処はあんま人いねーな」 「そうだね。」 「夏休みに来てたら人ばっかだっただろうな」 「うん。今くらいが丁度いいよ」 「だな。」 「そういえばまこちゃ…うわあっ!!」 「っおい!!」 まこちゃん、と言い切る前に知らないうちに私の前の水中を泳いでいたらしい男の子に躓き、足が取られて頭までプールに突っ込んでしまった。ゴボコポ…と嫌なくらい水の音が頭まで大きく響いている。 「ぷはぁ!」 すると身体が思い切り引っ張られ、パシャンッと頭が水中からでて空気に触れた。目を開けると目の前にはまこちゃんの胸板。裸だから直に肌に触れてしまい体温が上昇するのがわかる。それに胸も押し付けてるみたいな形になってしまってものすごく恥ずかしい。 「おい、大丈夫か!」 「う、うん…!死ぬかと思ったぁ…っ」 「ったくあのガキ…。」 「ま、まこちゃん!」 「あの、近いよ…!」 「あ、悪りぃっ」 「こちらこそ、ごめんね。さっそく迷惑かけちゃった」 「んなこと気にすんな」 へへ、と私が笑うと、頭を撫でられた。 そして当たり前のように私の右手を握られる。そのままプールの中を歩き始めた。 「そういえば、俺に何て言おうとしてたんだ?」 「ん?…あ、まこちゃんて水泳できるのって聞きたかったの」 「まあ、人並みには泳げるけど。」 「へぇ、やっぱり運動得意なんだね」 「まあな。…なんなら俺が泳ぎ教えてやってもいーけど」 「え?いいの?…溺れない?」 「溺れさせねーから安心しな」 「じゃ、じゃあお願いしようかな…!」 「おぉ。」 *** 「顔を水に浸けて足の力を抜いて浮かせろ」と言われたなまえは言われた通りにやってみるが、やはり先ほどのこともあったせいか、片足を浮かせるとすぐに起き上がってしまっていた。 「うわああんもう無理ぃまこちゃーん」 「(なまえのこの顔、俺のS心がものすごく疼く)…泳ぐ気あんなら俺を信じて浮け。あと、片足じゃなくて両足を浮かせろ。」 「うーん、泳ぐ気はあるんだけどな…うん…じゃあもう一回お願いしますっ」 「了解」 もう一度顔を水に浸けて足の力を抜いて 今度は両足の力を抜いて浮かせる。浮いたところでまこちゃんがゆっくりとなまえと向き合ったまま進み出す。 「あし、交互に動かしてみろ」 花宮が声を掛けるとなまえは足を動かしてバタ足をする。しばらくバタ足を続けていた。するとなまえの息が続かなくなり足を底に着けて起き上がる。 「ぷは!」 「やればできんじゃねーか」 「うん!まこちゃん!泳げたよ!」 「よかったな」 花宮は泳げて嬉しそうに笑っているのを見てとても愛おしく感じていつもは見せない優しい笑顔でなまえの頭を撫でた。 いつもの何倍も穏やかな笑顔の花宮を見たなまえはきゅ、心臓が掴まれたような衝撃を受けた。火照った顔を見られないように目線を下げながらごまかすように言う。 「まこちゃん、泳がなくていいの?!」 「どーすっかな」 「お、泳いでるところ、見てみたい、な」 「…し、仕方ねーな!ちょっとだけだからな。お前、もうプールサイドにいろよ。疲れただろ?」 「うん、そうするね。ちゃんと見てるからね!」 「わ、わかったから大声で言うなよ…っ」 まるで子供に言うようななまえに恥ずかしくなりながらも花宮はなまえに格好いい姿を見せるべく泳ぐ体制に入る。 プールサイドに上がって足だけをプールに浸ける体制でプールをすいすいと泳いでいる花宮を見るなまえの瞳はまさに愛するものを見るような慈愛を含んだ瞳だった。 好きだなぁ、小さく呟くなまえの声は花宮には届かずに周りの音に消されていく。 「ねえ、君ひとり?」 なまえは突然肩を叩かれてビクッと身体が飛び跳ねた。声のする方に目をやると金髪のチャラチャラした二人組がいた。いかにもナンパしにきました、というような風貌と態度になまえは無視をしようとしてまた花宮を目で追おうとした。が、二人組のうちの一人が「ねえってば、君のことだよ」と先程よりも強く引っ張られて無理やり目を合わされてしまった。 「あの、友達連れなんで…」 「友達?いまいないよね。よかったらちょっとでいいから一緒に泳がない?」 「なんだったらホテルでもいく??」 ギャハギャハと煩い笑い声が響く。周りのすれ違うひとはなまえの困った様子を見ても無視。なまえは、この人たち気持ち悪い、と思いながらも此処から動いたらまこちゃんわかんなくなっちゃうしどうしよう、と次の行動を迷っていた。 「ねぇ、名前なんてーの?行こ「なまえ。ちゃんと見てるんじゃなかったのか?」 聞き慣れた声がナンパ男の声を遮った。。いや、いつもよりも地を這うような低い声だ、となまえは思った。声の正体は明らかに機嫌が悪い花宮だった。濡れた髪を鬱陶しそうに掻き上げてなまえの後ろにいる二人組を睨む。 「んだよ、友達っつーから女かと思ったのによォ。彼氏なら言えっつの」 「あーもーめんどくせぇ。おい、次いこーぜ」 二人組はブツブツと言いながらも撤退していった。遠くなるナンパにふぅーとため息をつくなまえ。 なまえが花宮に礼を言おうとすると、突然花宮がしゃがんでなまえの肩に手を置いた。 「なんもされてねーか?」 「う、うん!」 「あ?ほんとか?」 「うん、本当だよ!まこちゃんが来てくれたから」 「はぁーもう心配させんなっての。」 「ご、ごめんなさい」 「いや、俺が悪りぃな。やっぱお前を一人にすんじゃなかった」 「泳いでるところ見たいって言ったのは私だからまこちゃん悪くないよ!」 「…ふはっんな必死になんなくてもいいっての。とにかく、そろそろ康次郎達んとこ行くか。」 「うんっ」 「ほら」 ほら、と花宮が差し出されたのはまた左手だった。もう水の中に入るわけでもないのに、何故手を繋ぐのだろうとなまえが 迷っていると花宮が無理やりなまえの右手を掴んだ。 「…?」 「その、おまえ、はぐれそうだからだよ!」 「…ふふっ」 「おい、笑ってんじゃねーよ」 耳を赤くして言い訳をしている花宮が可愛く見えたなまえはつい笑ってしまった。笑われた花宮はムスッとするが、ぎゅっと握り返された手に顔のニヤけを隠そうとしていた。 *** 二人がパラソルのところへ行くと古橋は死んだ目でどこかを見つめて、瀬戸は相変わらずアイマスクをつけて寝ていた。 「健ちゃん、康ちゃん。見張り番ありがと!」 「あぁ。濡れてるな、泳いだのか」 「うん!初めて泳げたんだよ!」 「…泳げなかったのか。良かったな」 「ありがとー!」 「…んあ、 なまえじゃねぇか。おかえり」 「うん!健ちゃん、ずっと寝てたの?」 「当たり前だろ」 「ドヤ顔してんじゃねーよバァカ」 「おー!みんな揃ってんじゃん!」 「あ、原ちゃーん!ザキくん!」 「よー、ナンパはどうだった?」 「よくぞ聞いてくれたな瀬戸!」 「一つも成功しなかったぞ!」 「だからなんでドヤ顔なんだよ」 「残念だったな」 「なんかもう可愛い子はみんな彼氏持ち的なね?ザキなんか顔見られて逃げられてやんの」 「え、ザキく…っごめ、ぷぷっ」 「おいおい、なまえまでひでぇよ!」 それからワイワイとみんなで話していると花宮がなまえに近寄って、ビーチタオルをバサッと肩にかけた。 「わ、まこちゃん!ありがと」 「んな薄いパーカーだけだと風邪ひくだろーが。」 「おー、さすが紳士!花宮かっこいいー」 「んなことわかってんだよ。なぁ、なまえ、ヘアゴムもってるか?」 「ヘアゴム?まってね、あるよ…はい!」 なまえがポーチから取り出したのはピンクの小さな玉が付いたヘアゴム。花宮はそれを受け取ると、鬱陶しそうにしていた前髪を結んだ。 「ぷはっ、花宮かわいい!」 「そのゴム似合わねぇーっ」 原と山崎は目に涙を浮かべるくらい爆笑していた。花宮のあやしげな笑顔に気づかずに。 「お前ら、明日の練習本気で覚悟してろよ?」 「笑顔の花宮…これはガチでやべぇぞ!」 「おいおい、笑ってたのはザキだけだろー?てことで花宮ぁ俺は勘弁!」 「んだとこら!裏切ってんじゃねーよ!」 「うるせぇ、どっちもだバァカ!」 ーーー いいかげん終われ
← / →
|
|