今日に限って仕事が多かった気がする。日直でもないのに日誌を頼まれるし、委員の仕事のはずのプリント作成も任されるし、さらには花の水やりなんかまでやらされた。頼んでくる人はみんな苦笑いで、ごめんね?じゃあよろしくっ!と逃げるように去って行くし。何なんだ一体!



そんなこんなで頼まれたものをすべてやり終えると、もう時刻は18:30を過ぎていた。


一人暮らしの私は自炊をしている。だから、早く帰ってご飯を作らなくてはいけない。それに加えて霧崎第一は授業のレベルが高いから復習をしないとすぐにおいていかれてしまう。だからできるだけ家では勉強をしなくてはならないのだ。


今日は何を食べようかな。家には何があったかな。そんなことを考えながら家の鍵を開ける。

と思ったら鍵が閉まってしまった。ということははじめから鍵があいていたということになる。おかしい。朝は確かに閉めたはず。そして心なしか家から良い匂いがする。


「早く入れよ、バァカ」


ドアノブを握って悶々と考えていたら突然扉が開いた。驚いて顔を上げると

見慣れた麿眉がいた。


「真!」

「うっせえ、近所迷惑」


ぐっと腕を引っ張られて家の中に入れられる。


「真、なんでいるの?」

「…べつに」

「これ、なんの匂い?」

「…あー、マカロニグラタン。お前好きだろ?」


靴を脱いで真に腕を掴まれたまま引っ張られるように部屋の中に入る。そしてテーブルに置かれている物をみると、確かにマカロニグラタンだった。私が作る物より美味しそう…


「え、これ、真が?」

「当たり前だろ」

「え、え、なんで?」

「はぁ?!お前今日何の日かわかってねーの?!」


さっき近所迷惑とかいっていたのはどこのどいつだ!と思うくらい大きい声で良いながら思いっきり眉を歪めた真。

今日?今日は…


あ、


「わたしの誕生日だ」

「そーだろ」


一人暮らしで忙しくて気づいていなかった。今日はわたしの生まれた日である。本人が忘れていたのに、真は覚えててくれたんだ。そう思うと目頭が熱くなるのがわかる。


「あ、じゃあ今日やたら仕事押し付けられたのも…?」


「俺が仕組んだ。」


なんでそんなドヤ顔なのよ、と内心ツッコむ。だからか、みんな少し怯えていたのは。私が断ってしまったらあとで真になにされるかわからないしね。それよりも、


「ね、食べてもいい?」


「おー。どーぞ」


真と向かい合わせに椅子に座り、ブレザーを脱いで手を合わせる。


「いただきます!」


スプーンを握ってグラタンを掬う。まだ作りたてのそれからは湯気が上がっていた。二三回息を吹きかけて冷ましてから口の中に入れる。



「美味しい」

「当たり前だ。俺が作ったんだからな」

「うん。ほんと、美味しいよ…」

「泣くくらい美味いってか」


頬杖をつき、少し呆れたように言う真の言葉に自分が泣いていることに気づいた。自然と涙が溢れてきたのだ。悲しいわけじゃない、幸せなんだ、と感じたから。


「…っまこ、と、あり、がと、」


途切れ途切れになりながら、何度も何度もありがとう、ありがとう、と感謝を伝える。スプーンを握る手にいくつもの涙が落ちてきてグラタンにも入ってしまったかもしれない。そんな風に思いながらも涙が止まらなかった。


「ああ。分かったから泣くな」


いつもの意地悪な真の声ではなく、優しい低音で聞こえた真の声にまた涙が溢れそうになる。


「バァカ」


言葉とは裏腹にわたしの涙を親指で拭う仕草も、見上げた真の顔もとても柔らかいものだった。



たっぷりのマカロニとおまじない



「真のグラタンは幸せにしてくれるおまじないだよ!来年も作ってね?」

「ふはっ。お前が嫌になるくらい作ってやるから覚悟しとけよ」

「大好き!!」

「バ、バァカ!」

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