あれ、ここ、康次郎の家だっけ。そうだ、お泊まりしちゃったんだった。幸せだな、ふとそんな風に思った。そっと寝返りをうって康次郎を見る。仰向けの彼の横顔がすぐそばにあってときめく。綺麗だ。時計はまだ4:23を示している。 顔にかかっている髪の毛を払ってあげると彼の左耳に目がいった。あれ、ここにピアス、開けてたんだ。 「ねえ、康次郎!もう一個ピアス開けようか迷ってるんだよね〜」 「そうなのか。いいんじゃないか」 「やっぱり?康次郎も開ける?」 「…いや、いい。」 「そう?じゃあ私の開けて。」 「あぁ。」 パチン 「康次郎うまいね。開けたことあるの?」 「ああ。」 「あ、元カノ?」 「…まあ、そうだな」 「ふーん」 あ、嫌なこと思い出しちゃったな。あの時にはもう開いていたのか。 わたしはベッドからそっと降りて康次郎を起こさないように自分の鞄の中からポーチを取り出す。その中にあるシルバーのピアスを持って再びベッドに潜る。 未だに規則正しく寝息をたてる康次郎の左耳の穴に私のピアスを差し込む。 それで起きた康次郎が、自分の左耳に触れると「ん、なんだ、くれるのか」なんて寝ぼけながら聞いてくる。「べつに、それもういらないからいいよ」と言うと、「そうか。大事にする」と言うとまた瞼を下ろしてしまった。 「おはよう」 「ん、おはよ。」 「これ、」 「これ、ピアス?」 「俺が買ったんだ。まだ使ってない。これのお返しにやる」 これ、といって康次郎はわたしがあげたピアスを触って見せる。 「ありがと」 「お前が、何を心配しているのかは大体わかっている。」 「え?」 康次郎が未だにベッドの上にいる私に近づいてくる。そのまま私の身体を引き寄せて私の肩に顔を埋める康次郎。首筋に当たる私があげたピアスの冷たさがひどく敏感に感じた。 「俺はお前が好きだ。これは、揺るぎない」 「うん」 「過去は過去でしかない。」 「うん」 「俺を好きなままでいろ」 「ふふ、うん」 「なぜ笑う」 「康次郎のいってることがよくわかんないよ、ふふ」 「…お前は一生俺の女、とでも言えばわかるか」 「どこでおぼえたのそんな言葉」 「瀬戸」 時計は7:48を示している。 BGM:左耳/クリープハイプ
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