君が自分のものだという証が欲しかった。
「赤葦くん、お疲れ様」と手を振る、校門で待っていたなまえに駆け寄った。他校の彼女はそこにいるだけで目立つ。セーラー服のスカートとポニーテールが風に揺れた。初夏でじっとりした暑さの中、テスト期間である梟谷学園は平日に部活動がない。いつも部活で遊ぶ暇がない俺達の唯一ゆっくりと過ごせる時間だ。
「少し遅れた、すまん」
「大丈夫、大丈夫」
色んな人に見られるけど有名人の気分だよ、と暑さにも負けずヘラヘラと笑う彼女に反してもやもやとした不快な気持ちが膨れていく。チラチラと感じる視線に見せつけるように、彼女の手を握って歩き出した。数分も歩けば、人がいない日陰の道になる。この辺はお気に入りで散歩には丁度いい。
「ん?どうしたの?」
「いや、別に」
にっ、と笑ったつもりだったが果たして彼女に伝わっているのだろうか。きっと、目敏い彼女のことだから「なんかいやなことあったの?」すぐに分かってしまうんだろう。
「次からは、来なくていいよ」と告げると、「え!!」と叫んだなまえの足が止まってしまった。あ、きっと彼女は勘違いしている。
「あ、いや、俺が、迎えに行くってこと」
「あ、あー、なるほど」
別れるのかと、思っちゃったよ。
切なげに瞳を揺らすなまえに罪悪感が募る。違う、そうさせたかったんじゃないのに。
「ない、ありえない」片手で彼女の後頭部を支えてもう片方を腰に回した。そしてぐっと顔を近づける。驚きで見開いた彼女の瞳を見ないように閉じて、唇を奪った。
きっと二人とも赤い顔してるだろう。触れている部分が全部熱い。「離すつもりも、ないから」抱え込むようになまえを掻き抱いて首筋に頭をうずめた。彼女の日焼け止めとシャンプーの匂いが鼻腔を通っていく。心臓を掴まれた感覚に襲われる。
「赤葦くん!」
ここ外、暑い、離れて、と背中をパシパシ殴られる。全く痛くないが確かに暑い。急に自分の汗の匂いが気になって身体を勢いよく離した。
「どうしたの?」
「すみません…」
「敬語になっちゃってる」
眉をハの字にして困ったように笑うなまえが、きらきらとしていて眩しい。
次に握られた手は彼女からである。
今日の赤葦のお題は、『触れたくなった』『もう、どうでもいい』『証が欲しい』です。