お昼休みの休憩時間。いつもより早く昼食を食べ終わった私はデスクで、キーボードをよけて腕を枕代わりにして窓の方に顔を向けながら仮眠をとっていた。暗闇に沈んでしまった意識が再び現れたのは、自分の身に違和感を感じたからである。

自分の身、とは具体的にいうと自分の頬だ。冷たいものが触れている。なんだと思ってうっすらと目を開けると、目の前には先輩の山崎さん。この人はいつも何かおかしな行動を取ることで有名だ。できるだけ関わらないようにしていたのだが、悲しいかな、この人は毎日何かと絡んでくる。プレゼントだよ、なんて言ってどこに売ってるのって思うようなシャンプーのボトルの口の部分だったり、ワイパーだったり、をプレゼントしてくるこの人は少し、いやだいぶ人とは違う感性を持っている。

とにかく、そんなことはいまは置いておこう。それよりも、だ。

「あ、あの。山崎さん」
「ああ!動いちゃだめだよ!」
「え、あ、すみません…でも…」

なぜ生クリームを頬に乗せられているのでしょうか。片手に生クリームの入った絞りを持った山崎さんは実に楽しそうだ。

「うん、だいぶパフェに近づいてきたよ」
「え、ええ?なぜ私がパフェに…」
「なまえちゃんならいい感じのパフェになりそうだな〜って、なんか美味しそうだし?」
「お、美味しそう…でしょうか?」
「うんうん食べたくなる」

笑顔で言う山崎さんに私は戸惑いが隠せない。このまま顔を上げてしまいたいが洋服やデスクに生クリームが零れるのは避けたいので無闇に動くことができない。くそう。にこにこと楽しそうに笑う山崎さんに強く当たれないのは私が小心者だからだろうか。

「あの、早く拭いていただけるとうれしいのですが…」
「はいはーい」

よし、山崎さんも分かってくれたみたいだ。ずっと横に顔を向けているのも、腕に頭を乗せているのも辛くなってきた。早くしてくれ、と瞼を閉じた。刹那、

れろり。「ひぃ?!」ざらついた、暖かくてぬめりとしたものが頬を這った。「あ!!ちょっと!顔上げないでよ!零れた!」「いやいやいや!!」

頬に触れたのはティッシュでもタオルでもない、間違いなく山崎さんの舌だ。未だに舌で舐められた感覚が頬に残っている。顔に熱が集中してきて、ぼとりぼとりと服やデスクに落ちてしまった生クリームを気にする余裕もない。何してくれるんだこの先輩は!

「勿体無いな〜」なんて呟いて自分の口端についた生クリームを舌で舐めずった山崎さんを直視できなくて目をそらしてしまったのは、別に恥ずかしいとかそういうんじゃないんだ。うん。顔の熱で生クリームがドロドロになったように、私の気持ちもいますごくドロドロしている。これって、まさか「ねえ、それ舐めていい?」とりあえず部長呼んでこよう。
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