あら、素敵な女子ね。

そっと手のひらで抑えた口から滑る心にもない言葉。いや、彼の娘は素敵な女子であることに間違いはないから心にもない、というのは正しくない。だって、尽八さんが好いているんだもの。素敵でないわけがないじゃない。よかった。尽八さんを丸め込むなんてどんな性悪娘かと思いました、なんて心では思っていても表には出しませんの。

そうだろうそうだろう!と少し照れくさそうに、にこやかに笑う貴方が憎くて仕方ないのです。

「あいつとは去年から仲が良いんだが、おとなしいやつでな、俺が話しかけると逃げ出すようなやつだったんだ!はじめは嫌われていたのだが連むと段々笑ってくれる奴でな、ついついからかってしまっているうちに泣かせ……っおお?!どどどうしたのだ!なぜ泣いている?!」

去年から?私は貴方が幼い頃から一緒です。貴方の口からつらつらと出る言葉は私の心を濡らした。勝手に溢れ出る涙は頬も冷たく濡らす。

「泣いてません」
「いや、それは泣いているだろう!どうしたのだ?どこか痛いのか?」

心配そうに俯いた私の顔を覗き込む尽八さん。

「触らないでくださいな」

肩に触れた尽八さんの手をさっと払う。目を丸くする尽八さん。ええ、驚くのも仕方ありません。一度だって貴方に拒絶の姿勢を見せたことなどありませんから。

少し眉を下げた尽八さんは悲しそうに「俺は、何かしてしまったのか?」と言った。

「いえ、なんでもありませんよ」

赤い唇は三日月に、涙袋を作った目元も三日月にして笑って真っ赤な爪を拵えた手を揃えて口元を抑える。その間も涙は今だに途切れることを知らない。

あなたは悪くないんです。

だって、勝手に恋をして勝手に傷ついてるだけですもの。

二人の間には、
蒼い糸しかないんですもの。



by 恋路ロマネスク
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