「ごめんね、やっぱり無理みたい」
「いや、いいんだ。ありがとう」
「こちらこそ、今までありがとうね」

目の前を去って行く男をみて思う。これで何回目だろうか。私の恋はうまく行かない。私から告白して付き合っても、向こうから告白されて付き合っても大抵一ヶ月もせずに私から別れを突き出してしまう。みんないい人だった。ほんとに。私なんかには勿体無いくらい。でも、なんだか、違和感というか、もやもやするんだ。

「ね、どうおもう?」青八木くんが腰掛けているベッドに私も乗っかって、ゲームをする青八木くんの丸い背中に私の背中を預けながら問いかける。「知らない」邪魔するな、というように青八木くんは身じろいだ。が、私が離れる気が無いと察すると諦めたように溜息を吐いた。

「ねえちょっとなんかないの青八木くん」これでも青八木くんと一緒にいる時間は長い。中学は違ったが、親が仲良いこともあって会う機会も多かった。だけどまだ苗字呼びなのはただただ今更名前呼びにする勇気がないだけ。「純太のが、詳しいと思う」パタン「手嶋くんねぇ、そうだねぇ」青八木くんがゲームの電源を落としてベッド下のクッションの上に軽く投げるように捨てた。

私のことは名前と呼んだことはないくせに。手嶋くんのことは純太、なんて言っちゃってさ。「なに」「別に。手嶋くんより青八木くんに聞いた方が良いような気がしただけだよ。」「何で」「私にもわかんない」「…苗字はなんで、好きでもない奴と付き合うんだ?」「…好きじゃないって分かってたんだ。」「はぁ」「青八木くん?」

「いいかげん、」どさり。預けていた青八木くんの背中の熱が消えて柔らかいものに触れた。支えがなくなり後ろに倒されてしまったのだ。私の上に跨ってくる青八木くんに驚いて声が出なかった。重力に従順に、青八木くんの前髪が落ちて大きな瞳がギラギラと光っているのがよく見える。窓から入るオレンジ色が反射して綺麗で眩しい。青八木くんの瞳を見ているとどんどん近づいてきて「俺に、しとけば」と、耳元で小さく、でもはっきりと青八木くんが言った。心臓が大きく跳ねた。本当は分かってた、もやもやの正体。青八木くんの事が本当は好きなんじゃないか、ってことも。青八木くんが私のことを好きなんじゃないか、ってことも。

「私でいいの」「名前がいい」

薄く笑った青八木くん。ありがとう、という私の声は青八木くんの唇のせいで消されてしまった。臆病な二人がやっと素直になった瞬間。これ永久保存版ね。

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